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言葉であそぼ

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「言葉であそぼ」では、五十音を使って物語を描いていきます。1週間に1回の予定
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#五十音

ヤマボウシの君へ

ヤマボウシの君へ

君を初めて意識したのは、高校2年のときだった。

昼に購買のパンを八つも食べた後の、午後の授業。しかも古文。どんな状態か想像できるだろう?
そのうえ、まだ日に焼ける季節ではないためカーテンは開いていて、日差しはやけに柔らか。

ウトウトが本格的な眠りになりそうだったそのとき、耳に響いてきた声に僕は目を開いた。

「いづれの御時にか、女御、更衣あまた候ひ給ひける中に、いとやむごとなき際にはあらぬが、

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葉蔭のハンモック(創作)

葉蔭のハンモック(創作)

春に生まれたから春子。
そんな安直な付け方でも、春子本人はこの名前を気に入っていた。

長い冬があけて花が次々と咲き始めるこの季節が春子は好きで、春のような人になりたいと思っているのだった。

母方の祖母が春子の名付け親で、春子たち一家は祖母の家の離れに住んでいる。

「春子が生まれた日は、庭の白木蓮が晴れた青空によく映えてね、それはそれは美しい光景だったのよ。甘い香りを春風が運んでくれて、天が春

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熨斗紙に愛をのせて(創作)

熨斗紙に愛をのせて(創作)

今日も私の勤める百貨店は大混雑だった。

屋上では夏休みのお子さん向けのイベントをやってるし、催し物場は不動の人気ナンバーワンの北海道展だし、化粧品ブランドがノベルティを配ってるし、
これで集客が上り調子でなかったら心配になるというものだ。

私は、そんなバタバタしている売り場をチラリとのぞき見ながらのんびりしていた。

先月、手伝いとして駆り出されていたお中元センターで、みんなと一緒に繁忙期を乗

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年輪の子守唄(創作)

年輪の子守唄(創作)

ねんねんよいこだお眠りよ
ねんねの里には春がくる

年輪かさねた森の木が
葉っぱでベッドをこしらえて
粘土を練るよに 念入りに
ぼうやを揺らすよ ねんころろ

ねんねんよいこだお眠りよ
ねんねの里には夏がくる

ネイビーブルーの海原は
熱気を涼しい風に変え
寝苦しくなく眠るよう
ぼうやをあおぐよ ねんころろ

ねんねんよいこだお眠りよ
ねんねの里には秋がくる

根っこにかくれた虫たちが
羽の音色を

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ぬんちゃくを隠せ(創作)

ぬんちゃくを隠せ(創作)

会社から帰ってきたパパが僕に「夕飯の後でちょっと時間をくれないか。話があるんだ」と言った。

こんなことを言われたのは初めてで、何だろうととてもドキドキした。もしかすると、パパとママの会話を盗み聞きしていたのがバレたのかもしれない。火災保険の話かなんかみたいで、聞いたからって怒られることでも無さそうだったけど。
気になりすぎて、夕飯に出た苦手な糠漬けをうっかり口に入れてしまったほどだ。げほっ

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忍者養成講座初級第二期開講(創作)

忍者養成講座初級第二期開講(創作)

日本古来の忍術から学ぶ現代の生き方
『忍者養成講座』

昨年末に開講し大好評を得た忍者養成講座初級。多くの支持をいただき第二期の開講が決定しました。

全6回のオンライン講座で、初級では「忍者の心・技・体」の基本的な部分を体得。無料説明会は7月22日(土) 、8月2日(水) 20:00 から開催します。

この講座を受けることで期待できること
⚫︎忍耐力を手に入れられる
⚫︎苦手なことを回避できる

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ナインボールは突然に(創作)

ナインボールは突然に(創作)

奈緒「縄」
賢也「綿」
笑子「タコ」
聖司「粉」
奈緒「なまこ」
賢也「ココア」
笑子「アイス」
聖司「すずな」

奈緒「えーっ、また“な”?!
   んーーーっとね、七不思議」

笑子「七不思議って言えば、私たちの学校にもあったよね。第二校舎の階段とか」
奈緒「そうそう。昇るときと降りるときの段数が違うってやつでしょ。あと暗くなってから中庭のナナカマドに触ると泣き声が聞こえるっていうのもあったよ

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跳べ! トンキーヌ(創作)

跳べ! トンキーヌ(創作)

2年前、ボクが裏の山を通り抜けようとしていたときに飛び出てきたのはトンキーヌ。
初めて出会ったんだけど、ボクにはそれがトンキーヌだということが一目でわかったんだ。

動物じゃなくて植物でもない。どんな分類になるのか不明のまま、この土地で語り継がれているトンキーヌは、どうやらとんでもない生き物らしい。
“らしい”と言うのは、めったに会えないうえに、会ったことがある人たちもトンキーヌについては語らない

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天に舞う手品(創作)

天に舞う手品(創作)

「手品」と、便箋に手書きのふた文字だけが並んだ手紙が届いた。
差出人は高校の同級生のてんちゃん。

これってたぶん、手嶋先生の結婚式の余興のことだよね。LINEのグループチャットで、クラスでお祝いするのに何がいい?って聞かれてたことへ提案な気がする。

私たちは先生が最初に卒業させたクラスで、天塩にかけてもらった生徒たちだ。
学生時代も、卒業して5年経った今でも、とても仲が良くて定期的に集まってい

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つかの間の綱渡り(創作)

つかの間の綱渡り(創作)

月子は、生まれて初めてサーカスを見ました。

今日訪問したクライアントから「1枚余っているからどうぞ」といただいたチケットを手に、おそるおそるテントをくぐってみたのです。

サーカスを楽しみに集った客たちは、家族連れやカップルばかりで、月子のように一人で来ている人は見当たりません。
始まる前は少し居心地の悪い思いでいましたが、オープニングショーの音楽が流れ出したとたん、そんなことはすっかり忘れてし

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ちょこっとチョロQ(創作)

ちょこっとチョロQ(創作)

もしもし、おばあちゃん?
このまえ、いっしょに地下鉄に乗ってるとき、ぼくが保育園のはなしをしたら、もっと聞きたいっていってたでしょ。だから電話したの。
ほんとにとってもおもしろいんだよ。ママはえんちょう先生がチャレンジの人だからだっていってた。茶目っけもあるんだって。

ほかの保育園って、お部屋がきまってるんでしょ? とり組さんはとり組さんのお部屋で、そら組さんはそら組さんのお部屋でって。
ぼくた

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太鼓のタイミング(創作)

太鼓のタイミング(創作)

目が覚めたら、いつもと様子が違っていた。

壁にプロ野球選手のポスターが貼ってあり、ターコイズブルーのカーテンが揺れている。

ポスターは見覚えがある。タブチだ。若いころのタブチ。
よく見ようと思ってベッドから身体を起こして気がついた。ここは中学生のころのオレの部屋だ。

これは何かのドッキリでオレを騙そうとしているのか?
この部屋があった実家は畳んで、今は両親は田舎に引っ込んで小さな田んぼを耕し

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そろそろそろばん(創作)

そろそろそろばん(創作)

娘のミミは来月の誕生日で5歳になる。
少しおとなしいところもあるが、幼稚園でお友だちもできて楽しい毎日を過ごしているようだ。
私のおなかの中では二人目の子どもが育っていて、こちらも順調。特に問題もないのだが、私の頭の中でグルグルとしている悩みがある。

それは習いごとだ。

最近、幼稚園の送迎バスを待つ間のママ友の一番の話題は「習いごと」。

トオルちゃんはピアノを始めたとか、カンナちゃんは英会話

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せせらぎに焚く青雲(創作)

せせらぎに焚く青雲(創作)

おかあさん
突然いなくなってしまってから3年が経ちました。

お元気ですか。
あちらの世界の人に安否を尋ねるのはおかしなことかもしれないけど、聞かずにはいられません。

お元気ですか。
ご先祖さまたちとのんびりしているのでしょうか。それともあらたな生命となって、もうこちらの世界にいるのでしょうか。
最近、そんなことをよく考えます。

おかあさんがかわいがってくれた孫は、もう5歳と3歳になりました。

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