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夢が叶う気がしない理由

今週は、実家に帰っていた。
父が余命1週間の宣告を受けたからだ。

癌の宣告から2年。
その間、旅行したり、家を行き来したり、父とは数年ぶりにたくさん話をした。
こんなにしっかり話したのは、二十歳の時以来。

高校3年、ちょびはサッカーを辞めて、突然「映画監督になる!」と言い出し、日芸大学に入ろうとしていた。
ちなみに、高校は情報科という所で、秘書検定とかパソコン検定とか、就職に必要な検定を取る専門学科。
過去、大学進学した人は一人もいない。
ママと高校の先生が出した大学受験の条件が、公務員の試験も一緒に受けること、だった。
合格率は、大学の倍率が57倍、公務員試験が3倍くらい。
ママたちは、ちょびが大学に受かると思っていなかったし、仮に受かっても、就職を説得する気でいた。

でも、受かってしまった。

「現実問題、お金がないから大学は無理!」
「公務員試験受けたら、行ってもいいって言ったじゃん」
「あれは嘘!」
と、きっぱり、ママに言われた。

それから数日間、毎晩のように、父がママを説得。
父のお小遣いを減りに減らすという条件で、ちょびは大学に行けることになった。

感謝した。頑張るぞ!夢を叶えるぞ!と気合いを入れて上京。
そして1ヶ月後、中退。
1単位も取らず、勝手に中退届を出した。
それを知り、ママが怒り狂ってた時、父と一番話した。笑

実家に帰ったんだけど、ママが全然話してくれないの。
無言。
最初に交わした会話、今でも覚えてる。
ちょびが、歯磨きをしてリビングに戻り、ソファに座ってたら
「ちょっと来て」って、洗面台まで連れていかれた。
「見て、鏡、水滴」
単語3つ。そこからまた、ずっと無言。超怖かった。

見かねて、父がちょびを外に連れ出してくれた。
「偉くならんでいい~いい~」
父の口ぐせ。偉くなるな、立派になるな。

「夢なんて叶えなくていい。
夢叶えた奴なんて、この世にいないよ?」

朝目が覚めて、突然目の前に1億円と、立派な家と高級車があるのが、夢。
プロ野球選手も、芸能人も、医者も、弁護士も、政治家も、経営者も、みんな夢を叶えていない。
勉強して、働いて、ずっとずっとやり続けただけ。
あれは、夢じゃなくて、現実が続いてるだけ。

っていう話を聞かされた。

「だから、現実から逃げることだけはやめろ」

居酒屋で、ビールを飲みながら、
「現実から逃げるのは、19時以降にしろよ」と教えられた。

ちなみに、癌になっても
「夜はセーフだろ~」と言って、酒を飲んでいた。

話すことの9割は冗談。
いつもテキトーなことばかり言ってる人だった。

余命1週間の宣告を受けて、自宅にベッドが来て、そこで寝たきりになった父と会った。
話すのも辛そうな状態だった。

たまたま、その日打ち合わせがあったので、編集の佐渡島さんに両親を紹介した。

「ちょびは、十年後、誰もが知るすごい作家になりますよ」

病気の父を思い、佐渡島さんが気をきかせてそんなことを言ってくれた。

あ~、それは言っちゃ駄目なのよ。

ちょびは心の中で思った。

ちょびが、何かの賞を取ったり、誰かに褒められたりすると、父は絶対に爆笑する。
照れてるのか、皮肉なのか、からかうように大爆笑して
「偉くなるなよな~」って言う。
だから、佐渡島さん、そんな褒め方しちゃ駄目なのよ。
また笑われちゃうわ。

でも、その日初めて、父は真面目な顔で
「良かったね」と言った。

いや、違うじゃん。

これから、面白い漫画描いて、売れちゃって、十年後すごい作家になっちゃったりして、実家に帰った時に、ママが
「近所の子がちょびのサイン欲しいって」
って言って、色紙出してきて、
「仕方ないなぁ」とか言って、サイン書くちょびを、怒らなきゃじゃん。

「夢なんて、叶えてんじゃないよ。偉くなるなよなぁ」

って、言ってくれなきゃじゃん。

それが、今のちょびの夢だよ。

父の言う通り、夢なんて叶うことの方が少ないよね。
だから、絶対、現実から逃げない。向き合う。
現実を、続けていく。

そんな気持ちで、今日も漫画を描き、この記事を書いている。

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