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「獣の国」第1幕 第15場(西スラム)

西スラム

■ 生気のない目で虚空を見つめているあかまみれの男。

■ ぼろぼろの服を着て、ひどく痩せた幼子と手をつなぎ道端に立っている少年。

■ 頬のけた、まだ少女にも見える女が肋骨あばらぼねが浮き出た胸元を広げ、小さな赤ん坊に授乳している。





■ 薄暗くごみの散乱した街路を歩くイツァークとライラ。
(ライラ)西に行けば行くほど貧しくなっていく…… ここが最後の吹き溜まり……

(ライラ)雨風あめかぜは凌げるかもしれないけれど
(ライラ)それだけで暮らしていくことなんてできないから……



■ 人形の残骸を片手にぶら下げた片目の少女がライラの前に立つ。
(少女)あなた…… わたしのママ?

■ 腰をかがめ、少女の頭に手を置き答えるライラ。
(ライラ)…… ごめんなさい ママじゃないわ



■ イツァーク、ヘッドセットから流れる音声にじっと聴き入る。

■ 少女の相手をしているライラに質問するイツァーク。
(イツァーク)W8B15Jはこの近くか?

■ 振り返り答えるライラ。
(ライラ)W8?
(ライラ)この先だわ



■ 走り出すイツァーク。

■ 走りながらイツァークはライラに説明する。
(イツァーク)獣が診療所に侵入
(イツァーク)一人殺された





■ 前方、手に棒状の物を持った男が見える。

■ 上腕部と太腿ふとももから多量に出血している白衣を着た男が、鉄パイプを手にして足を引き摺りながら建物の入口に向かっている。

■ 男に近寄り、声を掛けるイツァーク。
(イツァーク)通報はあんたか



■ 振り向き、イツァークの胸の「C.G.C.」の文字に目をる男。
(白衣の男)真紅護社クリムゾン

■ 建物を指差してわめく男。
(白衣の男)け…… 獣が中にっ!



■ ライラが声を掛ける。
(ライラ)落ち着いて



■ 鉄パイプを杖代わりにして、息を整えながら男が話を続ける。
(白衣の男)…… 診察中に…… いつの間にか奴等が忍び込んできて……
(白衣の男)振り返ったとき 腕と脚をやられた……
(白衣の男)…… もう1匹はベッドの上の患者を……

■ 顔を歪ませる男。
(白衣の男)そして…… 妻の悲鳴が…… 段々と遠ざかって……

■ イツァークの腕を掴み叫ぶ男。
(白衣の男)子供がっ! まだ中に娘もいるんだっ!



■ 静かに話すライラ。
(ライラ)あなたはここにいて
(ライラ)医者なら止血はできるでしょう?

(ライラ)少し時間は掛かるかもしれないけれど 救護の者を寄越よこすよう手配したから





■ イツァークはヘッドセットを頭から外す。

■ 短機関銃を右手にぶら下げたイツァーク。
(イツァーク)あんたの娘は助け出す
(イツァーク)生死問わず あんたの妻も取り返す



■ ゴーグルの奥で、イツァークの琥珀こはく色の瞳が金色に輝いているように見える。
(イツァーク)そして獣どもは鏖殺おうさつする


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