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【戦争のある日常】燃料をめぐるチキンレース 敗者は国民

オフィスは国連スタッフ用の宿舎とは別のところにあるので、僕らは毎日防弾車に乗って宿舎からオフィスに通っている。

その通り道、国営のガソリンスタンドがあるのだが、毎朝数百台という信じられない数の車が列をなしている。ガソリンを買うのにも一日並んで、それでも手に入らない時も多いという。

そのガソリンスタンドを過ぎて、別のガソリンスタンドの前を通りかかると、なんとガラガラなのである。そこでガソリンを入れている車もたまに見かけるのだが。

なぜこんな奇妙なことが起きるのか?

僕がいる場所は反政府勢力が抑えているのだが、内陸部は政府側に囲まれていて、港の外も政府側が抑えている。そのため、燃料を載せた船が港に入るには政府側の許可がいる。当然政府側は嫌がらせで、反政府勢力のテリトリ-に入れる船の数を制限している。そうすると通常、港での関税や手続き料を高くせざるを得ず、燃料は高くなる。燃料の市場への供給は反政府勢力の政府(意味不明だが存在する)が統一価格で供給(というより配給にちかい)する。

しかし、実のところ、反政府勢力は政府側のテリトリーからこっそり陸路で燃料を買っているのだ。仲買人は反政府勢力側に持っていって売った方が高く売れるのでこっそり売る。そうすると大量に燃料が流出してしまい、政府側のテリトリーでも燃料不足となり、同時に燃料価格が上昇する。

反政府側はここで港から入ってくる関税や手数料をあえて低く抑え、公式料金を安くし、国営のガソリンスタンドで量をコントロールしながら売る。一方で南から入ってきた燃料はマージンを取って私営のガソリンスタンドや市場で高く売らせる。その結果反政府勢力は関税で得られる金額よりも高い収入を得られる。ただし公的には使えないので軍事費に回る。

政府側は燃料輸入の制限を解除すれば、自分のテリトリーの燃料価格を下げることになるのだが、それはできない。反政府側も収入は入るものの、自分のテリトリーの燃料不足は長期的に見て、疲弊させる。チキンレースは続く。

そして一番の被害者は国民。国民の多くが貧困で苦しんでいるのに高いお金で燃料を買うか、配給制の安い燃料を長時間並んで買うか。戦争はじわじわと国民の首を絞めていく。

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