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さよなら、アドルフ

この映画はオーストラリア、ドイツ、イギリスの合作だ。
すばらしいことに、ドイツ人がちゃんとドイツ語で話している。
それだけではない、この映画は言葉を使わずに多くを表現するということもしていて、緊張感や怒り、悲しみが伝わってくる。
監督のケイト・ショートランドが、マーベルの「ブラック・ウイドウ」を引き受けてしまったことは、がっかりするが、「さよなら、アドルフ」は素晴らしい映画だ。

本作はナチスの将校の家族が、敗戦に伴って家を脱出するところからはじまる。
家族は山奥に逃亡し、ひっそりと暮らす。食べ物は近所の農家からわけてもらう。今までの豊かな生活とは正反対だ。
ある日、森を散歩していると、焼き捨てた紙の破片が舞っており、拾ってみるとヒトラーの写真だった。
夜、母親が家の前でタバコを吸ってくると遠くから車が近づいてくる。そして父親がいなくなる。

スリラー的な演出、不穏な感じを出すのがとてもうまい。
直接表現するのではなく、母親の苛立ちであるとか父親の怯えなどから、戦争が終わったことを知らせる。そして、彼らの置かれた状況が悪いものであると想像させる。

ヒットラーを崇拝する母親は、ヒットラーの死を知って放心状態になってしまう。そして、母親は収容所にいく。
母親は長女のローレに「誇りを失わないで」と言い残して出ていく。
母親の後を追うローレ。立ち止まって振り返った母親はなにも言わずにローレを見つめる。ローレはもう母親が戻らないことを悟る。このシーンは言葉を発せずに交わされる。

母親がいなくなり、ローレは保護者の役目を負わされる。
妹と双子の弟、それから赤ん坊がひとり。四人を養わなければならない。
彼らを連れて、おばあさんの家にいくことになる。

途中若い男の助けを得る。
これは映画によくある援護者だ。彼は信用しきれない部分があるが、ローレたちを助けてくれる。もともとはローレの体を目当てにしていたようだが、やがてそういったものはなくなり、保護者のようになる。
しかし、物語の後半で彼は去っていく。

ローレたちはおばあさんの家に着く。
そこは牧歌的で美しい土地だった。
家政婦のおばさんは、英語で歌を歌う。
ローレのおばあさんはまだナチス的な感覚を持っており、ローレはそれに反抗する。それは母親の「誇りを失わないで」という言葉を反映したものだったのだろう。過酷な旅を通じてローレは成長し、目的を達成したことによって強さを手に入れたのだ。

ちなみに音楽を手がけたのがマックス・リヒターだ。
彼の映画音楽は荘厳で、この映画に重みを出している。
手持ちカメラを多用した撮影はアダム・アーカポー。映像の美しさも完成度に貢献している。


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