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「キラー・インサイド・ミー」(2010年)

あと一歩で名作になれた気がする。
なにが足りないのだろう。
ケイシー・アフレックはとてもいい演技をしているし、ケイト・ハドソンやジェシカ・アルバといった女優陣もとくに不満はない。

ストーリーは、テキサスの保安官助手(ケイシー・アフレック)が、町で売春行為をしている女(ジェシカ・アルバ)に警告をしにいくところからはじまる。保安官助手は、よくできた若者といった感じの好青年で、売春婦に対しても丁寧に街を出ていくように説得する。しかしヒステリックになった売春婦は説得に応じず、助手に殴りかかる。カッとなった助手は思わず売春婦を殴り返す。それがきっかけで、秘めていた暴力性が目覚めてしまう。というもの。

ケイシー・アフレックは、「マンチェスター・バイ・ザ・シー」の時も素晴らしかったが、今回も心の中に闇を抱えた人物を自然に演じている。演技にくどさがなくていい。

じゃあ、どうして名作になれないのか。
いろいろ思いを巡らして、原作の「内なる殺人者」を書いたのが、ジム・トンプソンだからじゃないか、というところにいきついた。
ネットで検索するとすぐに出てくるのだが「安物雑貨店のドストエフスキー」というキャッチコピーがつけられている。いわゆる通俗小説なのだ。彼の作品は「グリフターズ」も映画化されている。これも非常にいい作品だったのだが、どこかこぢんまりとして、よそよそしさが残る印象だった。

そう考えると、「ブレードランナー」は、サイバーパンクというジャンルに純文学的要素を持ち込んだフィリップ・K・ディックの原作の良さを、映画においてさらに深化させて、強烈なオリジナリティを出すことに成功している、という点でもリドリー・スコットという監督はすごい人なのだなあと思う。

人は、なにかのきっかけで、自分が抱えている闇にとらわれてしまう。
そして、人の行いは、かならずなんらかの形で自分に戻ってくる。
良いことでも悪いことでもそうだ。
この映画はそんなシンプルなことを伝えているのだと思う。

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