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『短歌往来』2022年4月号

路肩にはいまだに堅き雪あればじふいちねんを消えぬかなしみ 本田一弘 まだ堅い雪が路肩に残っている。立春を過ぎ、3月11日が近づいて来る。今年で11年経つが悲しみは消えない。堅く締まった雪のように、悲しみは残り続ける。

苦しいと思ったこともあるでしょう廃工場を飛び立つカラス 東直子 結句のカラスに呼びかけているような一首。しかし上句と下句は全く切れるのかもしれない。上句は自分か誰かへの呼びかけ。下句は景。偶々上句の心境になった時にカラスが飛び立ったと取る方が余韻が生まれる。

③小林真代「作品月評」真闇から雪が匂うよ手を伸ばし肉で外気に触れたのだった 川本千栄〈なまなまと身体の部分を詠みこむ。引いた歌以外にも腕、脚、臓腑、裸眼、髪が詠われる。(…)激しい負の感情がある。〉ていねいに読んでいただきました。ありがとうございます。

④貝澤駿一「評論月評」死ね死ねと子供に言われ続けおり予想しなかったこんな日のこと 川本千栄〈無垢を経験で塗り替えていくということは、そうした罪の意識に耐えることなのである。〉他の作者の方(染野太朗、菊池陽)の作品と共に読んでいただきました。ありがとうございます!

⑤加藤治郎「歌葉物語②」〈また、著者が望まない限り絶版の心配がないことをメリットと認識していた。ところが、後年、歌葉という事業の採算が合わなくなり閉鎖を余儀なくされた。(…)システムを継続できず申し訳ないことだった。力不足というほかない。〉オンデマンド出版「歌葉」のサービス終了について述べられた文。「歌葉」開始については華々しく何度も述べられているが、終了と当事者であった加藤の謝罪の文は初めて読んだ。一定の成果はあったものの、総体的に事業は失敗だったという総括なのだろう。誠実に謝罪しているところがいいと思った。

2022.5.7.  /  5.14.Twitterより編集再掲