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『塔』2020年1月号

①三井修「八角堂便り」〈この「寄物陳思」は、万葉集の相聞歌を表現形式から分類した名称の一つであり、「正述心緖歌」と対応する言葉である。〉現代にも通じる話だと思った。

②吉川宏志「青蝉通信」〈昨年の十二月、大辻隆弘さんと「文語短歌は生き残れるか」というタイトルで対談をした。〉聞きに行きました。今回の文章はそれをコンパクトにまとめたもの。論点が整理され、よく分かる。文中に「偽の文語」という語があり、その辺りが私の持つ問題意識と重なる。

ああ僕が敗者だからか、勝ち負けが全てじゃないと言われてしまう 長谷川麟 先々月号で引いた作者の歌が今月新樹集…!今月の歌もいいな。辛い気持ちを詠んだ歌でも読後感があまり暗くないと思う。

分かれ道とは気づかずに来し道の川沿ひに咲くやまひよどり草 山尾春美 写生の歌なのだがどこか象徴的。特に上句が。「やまひよどり草」がありふれてなくていい。

バウムクーヘン薄くむきつつ食べてゐる地球の皮の上のわたくし 有櫛由之 豪快。バウムクーヘンを食べるたびにこの歌を思い出しそう。

豆球の光の下に子は醒めて人はどうして死ぬのと泣きぬ 吉田典 何歳ぐらいの子だろう。死が怖いというのは本能的なものなのだろうか。…と言いながら私がそうでした。幼稚園に行くか行かないかぐらいの年齢で毎晩泣いていた。眠ることが死に繋がるような気がしたのだった。

「転職」の「ンショ」のあたりがかわいいな 好きなだけ塗る粒マスタード 小松岬 転職を検討しながら何度もつぶやいているのだろう。音がかわいいという感性がいい。職業に縛られる自分と、「好きなだけ」と量をコントロールできる食べ物。上句と下句が響き合っている。

君たちの事実はどこにあるのだろう一列に咲く彼岸花の道 吉口枝里 君たちは誰?彼岸花?それとも別の歌に描かれている?突然咲く彼岸花が嘘っぽくて、つい話しかけてしまった、と読みたいな。三句五句の字余りがポワンとした雰囲気を出している。

青鷺のウかんむりのごとく垂直に飛び上がり高圧線を越ゆ 井上孝治 「ウかんむりのごとく」という比喩にノックアウトされました。

2020.1.25.~2.1.Twitterより編集再掲