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『短歌研究』2022年12月号「短歌研究年鑑2022」

①今年の一番の驚きは定番だと思っていた「○○年歌壇展望」の座談会が無いこと。私の持っている短歌研究年鑑の一番古いものは1999年でその時のメンバーは高野公彦、小池光、道浦母都子、坂井修一、加藤治郎。その後少しずつメンバーが変わって、2013年12月号から佐佐木幸綱、三枝昻之、栗木京子、小島ゆかり、穂村弘の5人で9年間続いた。ずっと同じメンバーなのでそろそろ何人かは交代かなと思っていたら座談会ごと無くなっていたのでびっくりした。この座談会の定点観測的な役割は大きかったと思うだけに戸惑いを感じる。

②尾崎まゆみ「2022年作品展望 2期」
不要不急の外出をして乗る電車筑波山みゆひがしの果てに 小池光
移り来てここに見放る六度目の遅秋の富士 平熱で見る 藤島秀憲
望まずに火の中にいたことがある進むことも退くこともできずに 川本千栄行く秋を見上げて井戸は笑いだすときおり覗く業平の顔 奥田亡羊
鶴の飛来万羽超えたる記事を読み押し広げたりわれの度量を 大口玲子
歯ブラシと命は近きものなれば生き延びた朝に夜に握りをり 川野里子
 
尊敬する歌人の方々の歌に並べて引いていただきました。感謝です。

③内山晶太「歌集歌書展望」〈岡井隆著『岡井隆の忘れもの』、川本千栄著『キマイラ文語』、藤原龍一郎著『抒情が目にしみる』、松村由利子著『ジャーナリスト与謝野晶子』など、歌集とともにいずれも重要な書籍が出版されていることを付記しておく。〉挙げていただき感謝です。

④梶原さい子「覚書/二〇二二」〈時が進めば、短歌の世界を支えてきた寄贈の文化は、より縮小する。それは、「読み」のシステムの大きな転換である。歌集を誰が読んでくれるか。これまでは、まずは、寄贈した相手であった。
 一方で、売れる歌集作りという視点が、かなり浸透してきた。これは、寄贈文化の縮小と表裏一体の関係にあるだろう。感想も、SNSで発信される。〉私自身の問題意識とぴったり重なる。私が『歌壇』の「年間時評」で書いたことと共通する。今後も引き続きこの「寄贈文化」について考えていきたい。

⑤黒瀬珂瀾「お茶を飲んでいる話」
〈メディアの人々や世間が発見したのは短歌文化の体系ではない。日本古来の伝統文化が現代に再発見されたのでは決してない。言葉をフレーズ化してエモいコンテンツとして流通させる目新しいツールとして現代定型句が創出された。短歌ブームにおける短歌とはユーザーにとってとびきり新しい、珍しい、新発見された便利アプリである。だからSNSと相性が良い、というか短歌自体がSNS性を発揮した。〉
〈断片的な情報に消費者が偏重する時代、ファストな感情コンテンツとして短歌が活用されている、という側面は否定しきれまい。〉
 短歌史を意識して読まれる短歌とは似て非なるものと位置付けている、ということだろうか。そしてそれに対して肯定的に捉えている、と取った。

⑥田村元「「短歌ブーム」についてー口語、私性、インフラ」
〈三枝昻之は評論集『跫音を聞く』の中で、正岡子規が和歌革新で果たした役割を、〈歌語のシェイプアップ運動〉と表現している。(…これが)短歌を作ったり読んだりする上でのハードルを大きく下げたと言えるだろう。川本千栄は「短歌の歴史は即ち口語化の歴史でもある」とも述べているが、私も同感だ。川本の言う〈ミックス文語〉を出発点として現在の口語短歌に至るまで、様々な歌人による文体革新の試みがあった。〉
 大きく取り上げていただきありがとうございます。

⑦田村元 
 三枝の著書の中で、窪田空穂が明治の和歌革新期の短歌を評価する際、〈自分を詠う新派和歌〉という分類を示したことに対し、それが〈近代短歌の〈私性〉に繋がっていくわけだが、今後、空穂の整理とは反対に〈自分を詠わない〉短歌が、現代の新派となっていく可能性がある。〉と論じたところが興味深かった。賞の評価軸に対する意見も頷きながら読んだ。この文が挙げている論点だけで相当色々な議論ができると思った。

⑧山下翔「歌人集会を中心に」
〈繰り返し考える、論じる、ということの大切さをあらためておもうわけだが、月々の総合誌だけでも、これまでの議論を踏まえて、そこにさらに論を積み重ねる、ということがなかなかやりづらい。総合誌の役割ではないのかもしれないが、このままでいいともおもわない。〉
 同意する。一つの論点に対して議論がじっくり積み重ねられるということが今ほとんど行われていないように思う。シンポジウムでも一つの論点を共有して、議論が白熱するということをあまり見ないように思う。どこか消化不良感がある。やはり総合誌にそうした議論を先導して欲しい気がする。それが無理なら結社誌か。
 〈松村由利子『ジャーナリスト与謝野晶子』、川本千栄『キマイラ文語 もうやめませんか?「文語/口語」の線引き』も今年の収穫として記憶しておきたい。〉
 ありがとうございます!

2022.12.17.~18.Twitterより編集再掲