『うた新聞』2022年7月号
①梓志乃「矢代東村」〈1915年から「現代の短歌は現代の口語で」という信念をもって口語歌に新分野を拓いた。〉〈(歌に句読点をつけることは)戦前・戦後の口語歌にはかなり見かけられ(…)〉梓が引いている東村の1915年(大正4)の歌は本当に口語歌だ。
人生は
もつと幸福であつていい。
ある時は
さう考へて
そんな気持ちになる。 矢代東村
1931年に出された歌集『一隅にて』はもっと文語定型に近いけど。
梓は、1928年の東村のエッセイを引いて〈東村の作歌姿勢はあくまでもリアリズムで口語のリズム・韻律を正しく生かすことという、意志の強さあっての発言である。〉と述べている。 戦前の、口語によるリアリズム。何も最近のことではないんだな。
②対岸に言葉を焚べに行くようなあの川へもう行くことはない 荻原伸 エッセイでは森の中の小川に数千の蛍が明滅する様を描いているが、この歌だけ読むと大きな川のように思える。初句二句が不気味な印象。火を焚いて言葉を燃やすような。そしてその川へはもう行かないというのだ。
2022.8.7.Twitterより編集再掲