角川『短歌』2019年11月号

忘れゐし子がゆつくりと戻りくるわれの心へ舟漕ぐごとく 澤村斉美 そう、仕事の間は本当に子供の存在を忘れてしまう。お迎えまでの時間、一人乗りの小さな舟に乗って、小さな櫂で一生懸命に漕いで、子供が自分の方へやって来るような感覚。

団栗をぽちりと踏んで左官屋が軽くセメント袋をかつぐ 田中道孝 セメント袋を担いだ勢いと重みで団栗は割れたのだろう。それを「軽く」と表したのがいい。角川短歌賞受賞おめでとうございます!「塔」の同じ歌会のメンバーが受賞してとてもうれしいです。

君という視点から見る僕がいる 湖を抱く街の教室 渡邊新月 今年もまた選考の対象になっている。去年から大ファン。一首一首が本当に瑞々しくリリカル。もっと上位になってもいいのに。

たくさんの花芽を腕に膨らませ夜にわたしはかぶれやすい木 椛沢知世 これはまたヤバ美しい世界を予感させる歌。審査員4人の内2人の票が入ってるんだから、20首くらい抄出でも載せてほしいなあ。

⑤角川短歌賞選考座談会 東直子〈出てくる固有名詞が少し古くて〉〈セーラー服の襟って(…)そんなに体にぴったりしないだろう〉〈「風につかまり」ってどういうことですか〉。この他にも、東は(推定される)作者像に捕らわれず、一首一首の言葉を冷静に丁寧に読んでいた。

⑥選考座談会つづき 東直子〈すでに口語短歌は成熟してきていて、どういう新しさがあるのかは足踏み状態かな…〉。全部引けないが、これに続く講評は新人賞に応募する云々とは関係無しに、現代短歌に対する重要な提言であると思う。

⑦久々湊盈子「秋の動植物」
夏ゆけばいつさい棄てよ忘れよといきなり花になる曼珠沙華 今野寿美
曼珠沙華一むら燃えて秋陽(あきび)つよしそこ過ぎてゐるしづかなる径(みち)木下利玄
  良い選歌。曼珠沙華には名歌が多い。

⑧桜川冴子「秋の動植物」
おほかたの秋の別れも悲しきに鳴く音な添へそ野辺の松虫 紫式部
〈…当時の松虫は現在の鈴虫…。〉…ですよね。この場面でチンチロリンは剽軽過ぎ。松虫と鈴虫はどこかで名前が入れ替わったらしい。納豆と豆腐みたいなもの?

⑨睦月都「歌壇時評 女という主体」この文は本当に端から端まで読み応えがあった。〈最近では(…)「男は仕事、女は仕事と家事と育児」という鬼かと思う新・性別役割分業意識が奇妙な広がりを見せており...。〉本当なの?これじゃ以前より悪化してるよね。

⑩睦月都「歌壇時評」つづき 山木礼子の連作に〈父親の存在、または不在が一度たりとも言及されていないこと〉を指摘したのも鋭いと思う。母親の子育ての歌に集中して読んでいた読者はこの指摘にハッとするのだ。

⑪睦月都「歌壇時評」つづき2〈女性の歌に、救済としての「老い」を見ることが多くなった、ように思う…。〉これも何だかなあ。(-_-;)確かに年取ると女は色々楽なんだけど、結果論なんだよね。年取りたかったわけじゃない。だから若い人が若いことを楽しめないなんて…!と思う。

2019.11.9.~13.Twitterより編集再掲