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『塔』2019年12月号

①「年間回顧座談会」千葉優作「結論ありきの評論ってだめなんですよね。」永田淳「(…)書いてるうちにあっち行ったりこっち行ったりする。そしてそのままほったらかしても、多分評論って成り立つと思うんですよ。」…うーん。それで成り立つのは、そう見えるように書いてるからでは?

結論ありきの論も安易な結論もだめだいうのは分かるけど、結論は要らないって言われると、はて?となってしまう。今回の座談会を機に4月号の評論賞の選考座談会をもう一回読んでみたけど、確かに結論よりプロセスが大事という話になってるな。いやー、難しいわ。

不機嫌は受話器から耳から骨にくる聞いておくしかない人の声 芦田美香 よく分かる心境。二句九音のボリュームがダメ押しになっている。三句の「骨にくる」がいい。音としての振動が伝わるだけでなく、深いところに達する感じ。「受話器」は今後、古びそうな語だ。

責任の重さは秘密の多さなりたんぽぽの首が川を流れゆく 小川和恵 今月の歌はどれも好き。特にこの一首は「首」がいい。たんぽぽの花が状況に流される人の顔のようで象徴的。

人々になるとき人は火を囲む顔でその火に近づいていく 椛沢知世 心のとても深いところに触れてくる歌。2回目の「火」が表すものは何だろう。「その火」と言っているのだから、「人々」になろうとしている「人」は多分わかって近づいているのだろう。

亡き祖母に似るらし薄き唇を電子レンジの扉に映す 川田果弧 作中主体はおそらく祖母を知らない。電子レンジの扉という、調理用の機器に映った自分の唇から、会ったことのない祖母に思いが飛ぶ。日常にあるちょっとした時間の裂け目のようなもの。

音は声 火の生れる声 水の声 葉擦れの声 いまあなたの声 山川仁帆 とてもセンスのいい歌。短歌の持つ詩の部分を抽出したような歌。

免許証の書き換えに行く免の字は火星の人にすこし似ている 竹内亮 何を根拠に、と思わず笑った歌。と言いつつ映像は頭に浮かんでるんですけどね。上句下句でつい一字空けしそうだけど、この歌は空けてないところがいい。

包丁で削ぐ皮シンクに落としつついつから興味がないきみのこと 工藤真子 包丁で皮を削いでいるから、おそらく牛蒡?作中主体は「きみ」に対して牛蒡の皮ほども興味が無いのだ。無関心。実質的な関係は続いているけれど心が終わっている感じにリアリティがある。

2020.1.8.~2020.1.8.Twitterより編集再掲