平出奔『友達と話すのが楽しい』2020.3.
①あなたとはいつかきちんと話したい 星の軌道はそういう言語 平出奔 上句は願望。話しているけど「きちんと」ではないのだ。下句の「星の軌道」は星占いのことだろうか。「そういう」願望を言語化してくれるものとしての星占いと取った。
②部屋の掃除に本気になった昼下がり ここまでもこれからも人生 平出奔 何となく始めた掃除にだんだん本気になってしまうことは誰でもあるだろう。真剣ではあるが、たかが掃除ともいえる。そしてそこに「人生」という大きな言葉が違和感なく収まっているのだ。
③変わってないはずの広さが広いのがうれしい 手を伸ばせば本がある 平出奔 掃除をして部屋への体感が変わった。部屋の広さは変わってないはずなのに広く感じる。本は手に届きやすいところに置き換えた。内容は素直だが、定型をわずかにはみ出すこの韻律感がクセになる。
④人がたくさん歩いて行ったその先にいるパンダの写真を僕は持ってる 平出奔 人々が上野動物園の方角に向けて歩いた、そこのパンダの写真を持ってる、ということか。人は必ずしも上野を目ざしていないし、パンダの写真との関係も無いような。その繋がりの不可解さが魅力。
⑤なんか書かなきゃからの書いたらこれだった これでいいじゃんになった日のこと 平出奔 「これ」はこの歌のことか、何か別のものか。書く必要があって書いたが、大したものではなかった。それでいいことにした。結句の「日のこと」という大ぶりなまとめも不思議な魅力。
⑥死んだらどうするんすかって怒ったら死んでないじゃんへのそうすけど 平出奔 単に口語というよりまさに発話そのもの。危険なことをした相手に注意したら開き直られた。そのこと「への」「そうすけど」。現在の発話に振り切って、饒舌に定型を攻めている。文体に魅力。
2022.7.24.~25.Twitterより編集再掲