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真の名を呼ぶ者(改)(2021年版全22話完結)

22
18歳の古賀翔平は誕生日を境に奇妙な夢を見る。それは想像もつかない試練の始まりでもあった。崩壊した新たな世界で翔平は使命を全うすることができるのか。善と悪が混在した中で彼が下した… もっと読む
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プロローグ

 じゃらりと鎖が鳴った。ボクは天井から吊るされていた。奴らは本気でボクを殺すつもりなのだろう。
 それでも笑いが込み上げる。どんなに痛めつけようと、ボクの勝ち。ファリニスの勝ちだ。例えこのまま朽ち果てても、もう思い残す事はない。
 寒い。氷の中にいるみたいだ。今はただ待とう。鼓動がこときれるその瞬間まで、彼らに想いを馳せよう。それが、せめてもの救いだから……。

 バージ……。

一 時が来た

 ぱこーん!
 ボクの脳が震動した。
何故。何事が起きたのだろう。霞とも違う。至極薄い、闇の渦が視界を塞いでいる様だ。
そこに、純白の光が射した。
「いい度胸だな、古賀翔平。内申書をお楽しみに」
 やけに響き渡る太い肉声。耳をくすぐる羽毛の様な笑い声。
 純白だと思った光は正面に掠れて見えるシャツの色と、頬を撫でる陽光だった。
 わかっている。そうだ、ボクはみんなに笑われているんだ。
 こいつのせ

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二 平凡の崩壊

「ただいま!」
 ボクは玄関の扉を勢いよく開けた。そうすることで絶望という呪いを払拭しようとした。
 予想通り、廊下の先から母さんと妹の容子が勢いよく飛び出してきた。
「大丈夫なの?翔平!」
 母さんは頭のてっぺんからつま先まで、優しく撫でるように確認した。手首の包帯も見逃すはずはない。
「ちょっと見せてみなさい」語気が乱れている。
 焦げ跡を追及される気がして、後ろに手を回してしまった。
「大丈

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三 ファリニスの作戦

 痛いほどの光が瞼を刺して目覚めた。ボクは固いフローリングの上に横たわっていた。関節を捩りながら視界を塞ぐ天井の模様を見た。明らかに見覚えのあるここは。
 起き上がって周囲を見回した。窓の配置も壁紙の色も、長年見慣れたボクの部屋だ。ただ、父さんのゴルフ道具やダンボールの箱、ガラクタが置かれているだけで、ボクの物は何一つなかった。
「どういうこと……」
 狐につままれたような気分だった。一歩一歩踏み

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四 新世界

 ボクは目覚めた。固いフローリングの上でもなく、見慣れた床でも天井でもない。刺すような頭痛がする中で、肘掛けにのせられた自分の腕を見た。気のせいか、まだらのアザが一層くっきりした文様となって手首を覆っている。
 天井には年季の入った小ぶりのシャンデリアが据えられていた。重厚な家具や天蓋のついたベッドもある。しかし、そのどれもが、役割を失った物のような物悲しさを漂わせていた。
 ボクが眠っていたのは

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五 黒い罠

──当主様。
 ボクの意識に入り込む声。アンクーの呼びかけが聞こえる。それは神経を貪られるほどの不快さで、身体を半分に折らずにいられなかった。
「大丈夫ですか、翔平様!」
 ニコレッタが近寄る。扉が開き、バージが足早に侵入してきた。彼は無言で天窓に視線を送り、そこで身じろぎ一つしないエドモスに頷く。
「襲撃……?」
 ボクの声は微かに震えていた。いつかこうなることは分かっていても、何処かで嘘だと信

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六 囚われの森

 ボク達は同志に見守られながら日の出と共に出発した。砂地に忽然と現れた樹海。丈高い木が鬱蒼と生い茂るそこは、見ているだけでも眩暈がしそうだった。
 バージが先頭を行き、エドモスが後ろにつく。剣で草を薙ぎ払い、道を作りながらの行進だ。光をまるで通さない森。エドモスの輝きがなければ一寸先は闇。湿度も高く、腐敗した草木のにおいが鼻を突く。
 辺りは異様な空気に包まれていた。恐らくボクらの行動を監視してい

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七 見えない嵐

「柳瀬は無事なんだろうな」
 ボクは松明を持たされ、奴に背中を小突かれながら言った。岩山の内部は思った以上に広く、曲がりくねった道を何度も分岐する。それは迷宮のように複雑で、入り口に引き返すのは不可能に近かった。
「無駄口はなしだぜ、お嬢様。オレは一人で来いと言ったはずだ。約束を破った奴にはそれなりの制裁を加える」
 アンクーはそう吐き捨てると、さらに強く押した。
「罠をかけたのはおまえだ!」
 

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八 別れ

「翔平、しっかりしろ!」
 半ば呆然としていたボクを正気に戻したのは柳瀬の声だった。歯を食いしばり、拳を握ることで、小刻みに揺れる震えを止めた。柳瀬を守らなければ。枷を外さなければ。憤怒と身体の底から逆流する血潮とで、証がふつふつと熱を持ち始めた。
「うるせえ、餓鬼だ」アンクーは柳瀬に向かって吐き捨てた。
「残念ながら貴様は用済みだ。大人しくしてもらう」
 奴は二頭の黒豹に合図を送った。それらは柳

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九 逃亡の果てに

──翔平。あなたに新世界の再生を託しました。あなたにしか出来ない事がきっとあるはずです。それに従い、全てを終えるのが、あなたの生まれながらの使命。
 ボクの中でその声は聞こえた。そして、それだけを残し、奥底へ落ちるように消えていった。
 漸くボクの身体はボクのものになった。目の前には変化の一部始終を見ていたバージの灰色の目があった。彼はボクの二の腕を握っていた手を離し、刹那視線をずらして目を閉じた

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十 偽りの秩序

 ボクは目覚めた。木の梁がある天井は見知らぬ物で、ランタンの明かりがボクの顔を照らしていた。全身に鉛の重みを感じる。どれだけ眠っていたのだろう、喉は渇き、じっとり汗が滲んだ。
「どうですか、気分は」
 いきなり横合いから顔を覗かせ、ボクに微笑みかける人物がいた。吸い込まれる様な翡翠の眼差しに一瞬にして心臓が高鳴った。肌は陶器を思わせ、長い金髪を後ろに束ねている様は慈愛に満ちた女神を連想させる。それ

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十一 真の闇

 ある日、ミオが珍しく屋根裏にやって来た。為す術もなくベッドの上で膝を抱えていたボクに向かって、突然彼女は言い放った。
「いつまでそうしてる気なのよ。あんた当主でしょ?みんなに守られてばかりで何もしない。苦しいのはあんただけじゃないのよ。こうしている間も、ラカンカはあんたの犠牲になってる。分かってんの?何かしなさいよ。何でもいいから!」
 ボクは顔を上げた。触れられたくないこと。触れられても答えの

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十二 迷路 

「オプシディオ、翔平を眠らせろ」
 ブロジュは呆然と立ち尽くしていた癒し手に言った。バージが突き付けた切っ先は喉に食い込み、微動も出来ない。ここで眠らされたらなにもかも終わりだ。どうする、翔平……。
「軟禁もやむを得ん」
 そう呟く老魔術師にオプシディオは軽く首を振ったが「悪く思わないでくれ」と、ボクに歩み寄った。
「兄貴!」
 八方塞がりだ。この状況を脱するには術を使うしかない。だけど、彼らを傷

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十三 歪んだ忠誠

 夜も白みがかる頃には妖霊達の姿はなかった。ボクらはジェラとライゾを呼び、黙々と屋敷へ向かう準備をした。覚悟は出来た。武者震いだけが全身に伝わる。
 ジェラに跨り、一気に丘を下った。人気のない民家の狭間を抜け、石畳を駆ける。ジェラの爪音だけが朝靄の広がる冷たい空気の中に反響した。
 すると突然、道の左右から民が数人飛び出してきた。待ち伏せしていたのだろう、ボク達の行く手を阻み、手にしていた鍬や斧を

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