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昔ばなし「一石」(いっせき)

むかしある村に神聖とされている池があった。
その池には大きく綺麗な魚が飼われていた。
その魚は代々の血統も良く、村人たちからは大事にされ、ほかの村の評判も良くその村のシンボルのような存在で、皆その魚を誇りに思っていた。

   ある日、村一番の貧乏な少年が池のほとりに立ち、思い詰めた表情でその魚めがけて石を投げた。その美しい魚は死んだ。

 さてさて村は大騒ぎ…大事な魚を殺めた少年はその場で重い罰を受けた。殺生の当然の報いであった。

 村の長老たちは集まり、その魚を丁重に引き上げた。
すると、その腹からは無数の小魚が出て来た。
むかしこの村が飢饉に見舞われたとき、この小魚は食料となり村人を救ってくれた。豊かになった村人は、すっかりその小魚のことを忘れていた。

 村一番貧しかった少年の家は、今でもその小魚を生活の糧としていた。そして小魚がいなくなったせいで、少年の家族は飢えで死んでしまった。

 その綺麗で大きな魚が、夜な夜な人知れずその小魚を飲み込んでいたことを少年は知っていた。

 長老たちは腕を組んで考え込んだ。
村の評判を上げてくれたその大きな魚を社にまつり神として崇め、そしてまた同じような魚を飼うか…それともその小さな魚を守るか…

少年の投げた小さな石が、大きな波紋となり村に伝わっていった…

小さな村のむかしのお話。

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