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また、ひとり・・・

 今月初めに、尊敬していた奈良の「やきもの・いこま」の元オーナーの箱崎典子女史が他界されました。
また、ひとり・・・目と心のある方が居なくなりました。とても残念です。

 私が美術工藝品販売の世界に入ったばかりの若い頃、銀座の有名百貨店の美術販売の信頼するベテランの方がこう忠告してくれました。
「この世界は魑魅魍魎の飛び交う世界だから、君のような人間は付き合う相手を気を付けなさい」と、それから何十年も経ち、確かに魑魅魍魎とは言わぬまでも、純粋な作り手とは違い美術品を扱う人間には一種独特のどこか信用の置けぬ方々が多いことは確かなことです。

 そんな同業者の中で、私が唯一尊敬できたのが、「やきもの・いこま」の箱崎典子さんでした。残念ながら現役の時にはお会いすることが叶わず、引退された後にお会いした時、私が以前から尊敬していたとお伝えすると、きっぱりこう言われました。
「あなた、私の真似なんかしたら必ず失敗するわよ、私は私の時代を自分の頭で考えて生きて来たの・・・あなたはあなたの時代を自分の頭で考えて仕事をしなさい」
 固いもので頭を叩かれたような気がしました。
それと同時に、このことは私の恩師の師匠である禅将・澤木興道老師がよく言われていた。
「今日は正解だと思うことが、明日も正解だとは思うな・・・物事は必ず変化して行く・・・その瞬間瞬間、己の頭で考え創意工夫して生きろ」

 どんな世界でも、その道で己の仕事を成し遂げた人間にはやはり同じ哲学があることをその時、実感しました。

 多くの無名の陶芸家や工芸家を育て、多くの人に陶芸や工芸品の素晴らしさを伝え、全盛期にはヨーロッパやアメリカにもそのファンのいた箱崎典子さん。影響を受けた人も多く、料理研究家の土井善晴さんも影響を受けた人物の一人だと著書の中で述べられています。
 そして、この業界で箱崎さんのような人物に出会えたことは、私にとって幸運だったと思っています。

 生前は多くお会いする事は叶いませんでしたが、ご縁あってご子息の陶芸家・箱崎竜平先生とは仕事を超えた友人のようにお付き合いさせて頂いていることを、本当にうれしく思っております。

「自分の時代を自分の頭で考えて仕事をする」箱崎さんのその言葉を胸に刻み、この時代にものづくりの方々とどう向き合うか、この時代にどのように美術工芸品の良さを伝えることが出来るか、ない頭をしぼり、今なお必死にもがいている最中です・・・

 取り留めもなく書き散らかしましたが。追悼の意味を込めたものと・・・ご容赦ください。

 心よりご冥福をお祈り申し上げます。

(画像は、ご子息の箱崎竜平先生の作品です。)

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