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【小説】どん底まで尽くす女が我に返った瞬間②



╋ 夢だったのかもしれない


無人の駅を通り抜け、スマホの画面を睨めっこしながら歩く。
先ほどからバクバクと暴走する心臓に邪魔されながら、真剣に悩んでいた。ユウキからの着信に折り返すべきか、否か。

少し違うかも、かけ直すことを悩んでいるのではなくて。

こんな時、「なんて言っていいかわからない」のだ。だって、そもそも殿方に電話をかける事なんて滅多になかったし。元カレに対してどうしていたかなんて、10年も前の話ですっかり忘れている。

『どうしたの?寂しくなっちゃった?可愛いなぁ』と、年上ぶってからかい返してあげるのがいいか。
『そんなに声、聞きたかった?』と、真剣なトーンで聞いてみた方が良いのか。
『ちょっとー!さすがチャラ男!こんなLINEを送って女子を手玉にとるのか!』と、ノリよく返すのか。

どれもしっくりこない…。

世の女性たちは恋愛ゲームをどのように楽しんで居るのか教えて欲しい。
お金払っても良いから、上手な会話の仕方を教えて欲しい…!!

なんて、完全に思考が脱線していたら、再びスマホが着信で震えた。

ドッドッドッドッド。
心臓が出そうになっているけど、出なくて興味を失われるのはイヤだったから通話のボタンに指をかける。

「…もしもし?もう着いたかと思って…ハル、さん。お疲れ様」

ちょっとー!!改まってさん付けは卑怯でしょ!!トキメク…!!

「あ、うん。さっき降りたところだよ。どしたの?」

冷静に返したー! 自分は二重人格ではないのか?

あんなに悩んでいたのがウソのように、雰囲気で会話することができた。

「ハルさんの、声聞きたくて。今は外?」
「そう、帰り道。家までもう少しだけどね」

もう少しどころか、30秒も歩けば着くんだけど。電話を切るのは惜しくて、先ほどから電気の消えたスーパーの前を何度も往復している。
帰り道の設定だから、足を止めたらおかしいでしょ?

「そっか…次は俺が家まで送ってあげるから。女の子がこんな時間に歩いてたら危ないからさ」

「通行人も居ないし、私を襲うようなモノ好き居たらすごいわ」

「じゃぁ、送りオオカミになる。モノ好き居るよ?」

「はいはい、ありがと!あ、もう着くから切るよー」

「そっか、…うん。じゃぁ、…寒いから温かくして寝るんだよ」

「ユウキくんも、ゆっくり休んでねー!」


問題です。
Q.この会話だけで私は何度ときめいたでしょう?

A.7か所。
そうです、彼のいう事のほぼすべてにドキンしてましたとも。なんなら、言葉にしていない「…」にまでときめきましたとも。
こんなに女子扱いしてもらったコトないし、マンガの中の人が現実世界に現れたもうたのかと思っている…!

心臓が持たないわ…と、思いながらスマホを耳から離すと

「あ!ハルさん!!」

と慌てた声がした。

「なに?」
「あの、ハルさん、おやすみ。…今夜は俺の夢みろよ?

即効で【終話】ボタンを押したのは私だった。

夢?コレは夢だろうか?私はすでに夢を見ているのではないだろうか?
っていうか、本当にリアルに実在する人間との会話だろうか?
私が二次元脳過ぎて、今時の人間同士のやりとりについての知識が薄いため全くわからない。

え?初対面の人と電話切る時に、今時の若い子はそんな事言うの?!

10月の北海道、日付が変わろうと時間。体は冷え切っているのに、顔だけ熱くてますます感覚がわからなくなった。

「よし、帰ろう。寝よう。」

刺激が強すぎて、考えることを止めた私は、その後さっさと家に帰り、布団に入ったのだった。



╋ 埋まる隙間


初日から、刺激強めだったユウキからの猛アピールは夢じゃなかった。

電話を唐突に切った事に対して、私は結構気にしていたのだけど…ユウキはなんてコトないようなポジティブさで絡んで来ている。

「元気?」
「そろそろ俺に会いたくなったんじゃない?」
「ハル不足~!会いに行こうかな」

私が何をしていようが、返信をしていなかろうが構わずにくるLINE。
電話の時のように、毎度返信に悩んでいる私はメッセージ作成画面を開きっぱなしで過ごす事が増えた。

もともと、スマホをそんなに触るタイプではなかったのに。

ユウキからのLINEが気になって、知らず知らず習慣となっていった。

生活スタイルが違うため、電話がかかって来ることはなかったけれど。
起きている間はユウキの事を考える時間が増えた。
(だって小まめに連絡よこすから…)

そしてマイからも、ヤッチンとの進捗報告と共にユウキの話題がふられる。

「今日、仕事帰りに遊んでたんだけど、ユウキがすぐに『ハルは来ないの?』って言ってる!」

マイはヤッチンと二人きりで会うのは照れくさいのか、ユウキと3人で遊んでいるようだった。
送られてくる写メに、すこしだけ羨ましさが混じって行く。

楽しそうな空気に混ざりたいだけ。なのに、なんだか恋しさと勘違いが始まっていたような気もする。

そして、そんな時に限ってユウキから来るLINEが

「ハルが居たら、もっと楽しかったのに」

「ハルが居なかったから、つまらなかった」

寂しかった訳じゃないのに、ほんのりと出来た隙間を埋められていった。


╋ サプライズ

仕事と家の往復を繰り返す日々に、少しの楽しみが出来てきた。

そんなある日の、マイからのLINE。

「仕事終わったら電話ちょうだい」

いつもはこんなLINEをくれることがないから、どうしたのかと思いつつ。
サロンの営業時間が終わった午前0時を過ぎて電話をかけてみた。

「もしもし、ハル?今、ホテルの駐車場に居るんだけど」
「ホテルって、ウチのホテル?何かあったの?」
「うん…ハルに会いたいってうるさいヤツが居るから連れてきた


「はい?!」

唐突に大きな声が出てしまい、同僚たちに不思議そうにされた。
自分の車に荷物を置くと近くに止まっていたマイの車がライトをチカチカつけて「ココだ」という合図をよこす。

予告なく現れたのは、マイの運転する車に乗ったヤッチンと、後部座席にフードで顔を隠しているユウキ。
なぜ、顔を隠しているのか聞くと、4日ぶりに私を見て照れているのだそうな。

「お腹空いたから、居酒屋でもいこう」

ココまでの間に、ずいぶんとうんざりした様子のマイの提案で場所を移す。
そりゃそうだ。自分がデートのつもりでヤッチンを誘っているのに、別のやつに付き合わされるのは複雑だろう…!マイちゃん、ありがとうね。なんか、ユウキがごめんね。

私の職場は、実家から車で30分ほどの場所にあるホテル内のエステサロン。マイたちの街からは1時間半ほどかかる場所にある。 私は1mmも悪くないのだけれど、なぜかマイに心の中で謝りながら目的の居酒屋に移動した。

サプライズ訪問の驚きに心臓が変な脈打ち方をしているせいか、気分が悪くなってきた。酸欠?不整脈?わからないけど、ほんのり吐き気がする。
でも、もしかしたらお腹が空いているだけかもしれないし、何か食べれば治るかな?

居酒屋に入り、食事をしながらワイワイと話した。
ここ数日の淋しさが、仲間に入れて貰えたことで癒される。
店の閉店時間の午前2時を回るまで、あっという間だった。

「ちょっとだけ、外の風に当たってからゆっくり帰るね」

具合が余計に悪くなっていた私は、帰り道の長いみんなにそう伝えて手をふる。心配そうにしながらも、さすがにみんな疲れたのかゆっくりと車が遠くなって行った。

さて、私も帰ろうか。
そう思って一歩踏み出した瞬間、その場にしゃがみ込んでしまった。


世界が大きく回って、立ち上がれない。

さすがにヤバいと思い、霞む視界の中でギリギリのSOSを送った。



╋吊り橋効果


「ハル!ハル!!大丈夫?!」

声が聞こえて、自分が意識を失っていた事に気付いた。
雪が降る前とはいえ、北海道の夜に危なかったのではないだろうか…?

声の主はユウキだった、ぺたんと座り込んだ私の体を支えてくれる。

「あー…ちょっと、大丈夫ではない…」

貧血の時みたいに体が冷たくボヤっとしたカンジ。
これで運転して帰るのは不可能だと思って、いつものように強がる気力もなかった。

「マイ、俺、ハルの車を運転してくから。ハルの家で拾って」
「わかった!ゆっくりで大丈夫だから、ハルの様子見ながら向かって」

抱きかかえて貰いながら、助手席に座る。

「大丈夫?少し倒すよ」とか言いながら、覆いかぶさるみたいにシートの調整をされるとか、通常運転の私ならキュン死してるところなんですけど。
具合悪くて、それどころじゃなくて本当に良かった。「うわー、どきどきするわぁ」くらいで済んだ事は本当に良かった。

すぐそこの自販機で水を買って来てくれて、車内が温まるまで少し休む。

「…すっごい不謹慎なんだけどさ。2人っきりになれてラッキーって思ってる」


うん、良かったよ。申し訳なさで潰れそうになっていたけど、キミがポジティブで居てくれるから気が楽だよ。

「ハルってさ…ものすごい頑張り屋さんだと思うんだけど。俺には頼ってくれないかな。頼りないかも知れないけど、甘えて欲しいって思ってる」

温かい手が、私の手を包んで、切なそうにつぶやくユウキ。
完全にズルいヤツ。通常運転の私ならキュン死しているレベルだけど、弱っているから照れるしかできない。

「…ありがとう。手、温かいね」
「おう、任せとけ」

散々照れさせてきたユウキに微笑みかけると、逆に照れたらしくそっぽ向かれた。
なんだいそれは、可愛いじゃないか。

血圧が問題だったんだろうか。ドキドキしてきたら、割と楽になって来た。
顔色も少し良くなって来たということで車が動き出し、30分のドライブが始まる。

握ったままの手の温度を感じていると、ずっとこうして居たくなった。

騙されちゃダメだと思ってたんだけどなぁ…。
これは、もっと甘えたいやつだ。

「私ね、ユウキの声が好きだよ。電話魔なら、かけてきたらいいのに」
「マジで!飽きるほど聞かせてやるよ」

運転しながらの嬉しそうな横顔を見ていて、すっかりと警戒心が行方不明になっていく。


もっと一緒に居たいな。


家まではあっという間についてしまった。
マイとヤッチンにお礼を言って、解散する。


ユウキからはPHSの番号が送られて来た。私も、元カレと遠距離の時に契約したままのPHSの番号を教えた。


この時、どうしてPHSを持っていたのかを聞かなかったのだろう。

少しずつ、ユウキに対しての安らぎを感じ始めていた私は。

もうすでに盲目スイッチが入っていたのかもしれない…


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弱ってる時の優しさって
いつも以上にキュンとするよね
( *´艸`)

本人は盲目スイッチに気付いていないこの状況!
「ダメ」と思うほどに沼にハマるパターン💦

しかしつくづく、素直に愛を受け取るのが下手な主人公だなぁ…
と、思いながら振り返っております🤤
もっと楽に愛される方法可愛い甘え方も教えてあげたい🤣←

不器用なやりとりに
ドキドキ、ハラハラして貰えてたら嬉しいです❤


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