見出し画像

模倣犯

 日本における犯罪は減少傾向にあり、世界で最も安全な国の一つなのだが、しかしそれでも凶悪犯罪が完全になくなるわけではなく、時々何日にもわたり報道されるような大きな被害の事件も起こる。先日は京都でアニメーション制作会社がガソリンを撒かれて放火され、7/20夜現在で死者34人という戦後最大の犠牲者数を出す殺人事件に発展した。

 こういう事件が起こると事件の概要や被害が拡大した要因がメディアにより詳しく報道されるわけだが、それを見ていつも思うのが、こういう報道で模倣犯が現れないだろうかということである。

 今回の事件ではガソリンの揮発性の高さゆえ、爆発的な火災が発生し、短時間のうちに建物内に煙が充満したことが被害の拡大につながったと目下推測されている。犯人も火災で大きなダメージを受けたようで、犯人自身もガソリンの危険性を十分認識できていなかったのではないかとも思える。今回の事件で、ガソリンという誰でも手に入れられるものを使ってこれほど大きな被害を出せるということが実証されてしまったわけで、同様のガソリンを用いた犯罪が発生しないか不安になる。

 また今年の5月末に起こった川崎市の殺傷事件では、スクールバスを待っていた小学生の列が標的になった。この事件で、一か所に小学生が集まるスクールバス待ちの列の脆弱性が明らかになってしまったわけで、誰でもいいから多くの人に被害を与えたいという動機で事件を起こす人にとってはこの事件は格好のヒントになるだろう。この事件では犯人は徒歩で近づき刃物で攻撃をしたが、もし自動車で突っ込むような方法をとればもっと被害は拡大しただろう。

 しかし、このように大きな被害を出す方法やそのヒントが共有されているにもかかわらず、それらを模倣した犯罪が頻発するような状況にはなっていない。これは、日本の治安が人々の心配するほどに悪くはないことを示しているように思える。むしろ、川崎の事件の後に、元官僚が引きこもりの息子を殺害した事件のような、不安の高まりのもと、勝手に犯罪者と共通する属性をもつ人々を犯罪者予備軍として扱うことによる悪影響のほうが社会にダメージを与えるのではないかとも思える。正直ああいう事件はそう簡単に防げはしないし、完全に対策しようとすればそのコストもかさむので、ある程度は諦めて生活するしかないようも感じてしまう。できるとすれば、「逃げ道」「逃げ方」を意識して生活することなどだろうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?