見出し画像

ウェブと集中

 ご存知の方も多いとは思うが、ウェブサイトやWWW(World Wide Web)の「ウェブ(web)」はクモの巣の意味である。ある研究機関で情報共有のための仕組みが作られたとき、その開発者たちがそのネットワークを張り巡らされたクモの巣に見立てたことに由来する。

 これはあくまで「網」という類似点に基づいた命名であり(mesh(網)はmess(混乱)と似ているので使われなかったという話だ)、インターネットには「巣の主」はいない。通信のハブのような存在があったり、政府の監視もある程度は及んでいたりするが、インターネット全体を管理運営するような組織は存在しない。すなわち分散型のシステムである。

 しかし、商業ではインターネットが文字通り「ウェブ」として機能しているように見える。この場合「クモ」は企業、特にグローバルに事業を展開する大企業である。

 商業と言うのは大なり小なりネットワークの上に成り立つものである。これはインターネット登場以前から同じで、地域の利用できるネットワークの範囲がその商業主体にとっての「クモの巣」となっていた。クモが巣にかかた虫を食べるように、商業主体はその「ウェブ」の中の利益を確保するのである。

 近現代の通信・流通の発展はこのネットワークを拡張した。郵便・電話などの通信の高速化、鉄道・高速道路などの高速運送網の整備といったものである。また工場で大量生産が可能になったこともこの拡張されたネットワークを利用して事業を広げることを可能にした。その中に現れたのがインターネットである。

 今やインターネットは商業においてなくてはならないものになっている。物質経済での利用のみならず、インターネット上のサービスもまた事業の対象となった。インターネットの恩恵のもと、広い地域に、さらには世界中に事業を展開する大企業が幾つも出現した。Amazonをはじめとする通信販売企業やSNSなどを運営するIT企業がその好例である。一方で、ローカルなネットワークの中で行われていた小事業は彼ら大企業に押されつつある。インターネットは分散型のシステムであるが、その巨大なネットワークを「クモの巣」にすることができれば、集中型の巨大な企業が成立しうる。現代のネットワークシステムの発展に伴ってビジネス範囲を広げた巨大な「クモ」が、現代経済の主役となっている。

 しかしそのようなインターネットの時代でも、多くの企業が本社や支社といった現実の拠点を構え、そこに社員を集めて活動している。ではそれらの企業がどこに拠点を構えるかというと、社員が通いやすく他社との対面ビジネスも行いやすい、東京をはじめとした都市ということになる。その結果、労働者は職を求めて企業が集まる都市部に集中することになり、それゆえさらに都市の企業拠点としての価値が高まり、といった集中の循環が起こる。

 このようにして分散型のシステム、インターネットが広がっているにも関わらず、商業の分野では特に、集中が進むことになっている。私たちが物質世界で生活を続ける限り、インターネットを巣にする「クモ」の存在は現実世界での集中として現れるだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?