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「わかってしまう」社会で

 某有料マガジンの内容に関連して。

 現代はネタバレの時代、「わかってしまう」社会である。情報化、とりわけインターネットにより人々がアクセスできる知識は飛躍的に増大したし、著名人や専門家以外の人々が公共に発信するハードルも下がった。その結果、昔は知ることのできなかったような話、噂にすぎなかった話を見聞きすることが多くなった、いや、見聞きせざるを得なくなった。

 先ほど貼ったリンクは有料マガジン内の記事なので「ネタバレ」は控えめにするが、本人がTwitterに要約している内容としては、社会の「建前」がインターネットとそこで知識を得た人々に矛盾を突き付けられるという話である。ただ、そのような「本音」社会で「建前」が取り払われた後に、その「建前」で守られていたものはどうなるのかというところも指摘されている。

 多分、現代日本のもっとも大きな「ネタバレ」「わかり」は、「将来がもうそれほどよくならない」ということだろう。先に言っておくと、この「ネタバレ」「わかり」というのはインターネットを中心に情報を拾っていくとたどり着きがちな結論という意味で、100%確実にそうなるという意味ではない。

 数十年前の未来予測は実現しただろうか。確かに我々は物質的には豊かになったし、いろいろな便利なものが登場した。そういう意味では社会は確実によくなっている。しかし、労働時間は多少短くなったかもしれないが、それでもまだ1日8時間は「前提」である(しかも機械化や情報化でスピードが上がっているため、時間あたりの密度は増加しているだろう)。非正規と呼ばれる不安定な(≠自由な)職が増え、賃金もそう上がらないのに税金や社会保障費は上がっていく。それなのに、インターネットの窓の向こうには豊かな人々の暮らしが鮮やかに見えるのである。

 そして何よりも子供が少なくなってしまったのである。少子化は近代化・都市化に伴いよく起こる現象とはいえ、社会の維持が危ぶまれるところまで(それも平和で豊かな社会で!)減るとは誰が予測しただろうか。

 残念ながらおそらくこの「ネタバレ」社会は少子化を促進する。まずパートナーを見つけるところで、多くの異性が見えることは高望みの原因になるだろうし、また最近は異性へのアプローチや結婚がリスクとなると思わせる情報も多い。子供をつくるところで言えば、子供の成育に遺伝や環境が大きく影響するらしいことが確かに語られるようになったし、いい職に就けなかったり発達障害や引きこもりなどの問題を抱えたりするとどうなるか、あるいは子供にどれくらいの費用を世間がかけているのかについても皆に知識が広まっていく。子供をリスクとみなす人は増えるだろう。

 今数十年後の未来予測をしても、数十年前にされたものより随分希望のないものになるのではないか。もちろん技術的発展はするだろうが、一方で一般市民がその恩恵をどれだけ受けられるだろう。労働時間や賃金、社会保障などの分野では、大幅な改善を予測する人は多いとは思えない。自分の老後が安泰だと思っている若い世代は少ないだろう。

 おそらく社会への「わかり」がもっと進めば、自分たちが理想とする社会が(今の技術では)そもそも成り立たないという結論になっていくように思う。消費者としての利便性を追求すれば労働者としての負担は上がるし、個人の自由を拡大すれば、それまで社会に対する個人の貢献あるいは我慢で支えられてきた部分が危うくなる。

 それでもなおこの国の「建前」としては、少子化をなんとかしようということになっているし、老後のために2000万貯めなければという話は否定されている。この「建前」が崩れたときにどうなるか。今はまだ「生産性で人の価値を決めるな」「個人の自由や人権は守るべき」という「建前」だが、それらも社会の維持が危うくなれば堅持されるとは限らない。

 その時、過激な方向で一発逆転を狙うような勢力が台頭するのか、それとも見切りをつけた人々が静かに社会から歩み去り人生から退出することを求めるのか、あるいは社会の維持再建に適した文化に徐々に移り変わるのか、はたまたそれ以外か、それはまだわからない。もしかすると、なんだかんだで「建前」は持ちこたえるかもしれない。

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