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一時間文芸②「鬼」

「一時間文芸」が何たるか。については以下参照。

…そのうえで前回書き忘れた事の追記。
全体のお題はひとり2枚づつ書いて先生に提出し、くじ引きで決めるのだが、その2枚のうち1枚のお題を必ず作品の1行目に入れる、というルールがある。
よって今回、全体のお題は「茶筒」だが
私の(1行目に必ず入れる)お題は「鬼」

今回はワードけっこう使ったと思うよねw

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「鬼」

朝、目が覚めると、鬼になっていた。

今朝、頭をベッドの先の壁にぶつけて目が覚めたのだが、ゴツ、という聞きなれない音に違和感を抱き触ると、頭頂部の真ん中に角が一本生えていた 。

昨夜は浴衣を着て夏祭りデートだったのだがちょっとした地震が起きて騒ぎになり、逃げる時に転んで祭りの屋台を支える柱に頭をぶつけた。その時にたんこぶが出来たのだろうか… …と思い返しながら何度も触ったが間違いない。瘤ではなく、角だ。

地震は幸いたいした規模ではなかったが、 帰宅すると棚から物が幾つか落ちていた。 その中に千利休ゆかりとかいう怪しげな茶釜と茶さじと、そして茶筒があった 。 茶筒から緑茶の粉がこぼれて床じゅうに散乱し見るも無惨だったが走って帰宅し疲れていたのでそのまま寝た。
そして朝。
片付けなきゃいけないがそんな気力もわかない。何しろ鬼になってしまったのだから… …今は、どうすれば人間に戻れるかのほうが重要だ。

デートの相手とはアプリで知り合い初対面だったが地震で揺れた時も数学的にこの地震の規模は~確率は~とか語るばかりで全然頼りにならず、逃げるのを口実にさよならした。
その前にふられたのは体型がドラえもんそっくりの冴えないおやじだった。でも好きだった。今でも。茶道具はおやじが私にく れたものだ。好きなのに趣味が古いとか痩せろとかさんざん酷い事を言ってしまった結果ふられた。そして私は鬼になった… 天罰なのだろう。

こぼれた茶葉をかき集めひとまずお茶をたててみた。目を閉じるとおやじと一緒に見た桜、飲んだお茶、団子… …楽しかった思い出が浮かび涙が流れた。そして角を二本生やした青い顔のおやじが浮かんだ。
私ははっとした。
そうだった。
1年前の大地震で人類は皆滅び、鬼に生ま れ変わったことを思い出した。
私は、今朝からではなく、1年前から既に鬼だったのだ 。
(2024年1月13日)

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