ラバーマインド・プロテクション [逆噴射小説大賞2022]
人気のない河川敷。
横たわる身元不明の死体。
その腹に両手を突っ込んで内臓をまさぐっているのは甥っ子のカズだ。
今日はやけに時間がかかっている。
俺は無意識に煙草に火をつけた。
「ジジイ、現場は禁煙だぞ」
顔を上げずにカズが言った。
「俺はまだ五十だ。ジジイはねぇだろう」
言いながら俺は煙草を捨てた。
カズは無言のまま死体の腹の中から例の物体を取り出した。
数年前から身元がわからない変死体から発見されるようになった代物だ。
何度見ても理解に苦しむ。
そいつは卵型をした機械のようなもので、中には必ず薄気味悪いゴム人形が一体入っている。
元々死体掃除屋だった俺たちは、廃業寸前のところでこいつを回収する仕事にありついた。
雇い主は誰かって? それは聞かねぇ方が身のためだ。
後ろで足音がした。
振り向くと、見覚えのあるガキが短刀を持って立っていた。
物騒にもほどがある。
一瞬の隙をついてガキは斬りかかって来た。その動きは素人ではなかった。
俺は咄嗟に体をのけ反らせて刃先を避けた。
ガキは舌打ちすると次はカズへと斬りかかった。
そこで俺は思い出した。
こいつは数週間前にカズが弟子にするとか言って連れてきた奴じゃないか? 確か名前は…
「シン、やめろっ」
カズが冷静な声で言った。
そうだ。こいつはシンだ。
振り下ろされた刃がカズの右肩をかすった。わざと斬られたように俺には見えた。
例の機械が地面に転がった。
それを拾うとシンは驚異的な脚力でその場から逃げて行ってしまった。
追おうとする俺をカズが止めた。
「知っててつるんでたのか? 何者だ?」
俺の問いにカズは頷いて答えた。
「鼠だよ。あいつが持って行ったのは発信機付の偽物だ」
「…じゃあ、追っかけてぶっ殺すか」
「だめだ。あいつ、ユウの弟なんだよ」
俺は黙ってカズを見返した。
「洗脳されちまってる。俺が助け出す」
カズの言葉に俺は思い出した。
五年前のあの日。
そう、カズの親友が死んだ、あの日のことだ。
【つづく】
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