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旬杯リレー小説[B]→友音さんの[承]→riraさんの[転]…からの[結]幻想鉄道の夜

みんなで繋げる物語「旬杯リレー小説」
詳しいことは文末に。まずは物語を紡ぎます。


◎起【B】

作者:PJさん

風が吹き抜け、太陽が肌にじりじりと照り付ける。
今年は猛暑になるらしい。
海に行きたいと思った。
輝く海と、その水平線に浮かぶ白く大きな入道雲。
夏がやってくる。
生涯忘れることのない夏が。


◎承:「夢と目覚めは各駅停車」

作者:友音さん

菜々は部屋の窓越しに突き抜けるような青い空を見ていた。

今年も暑くなりそう・・。

今週中に仕上げなくてはいけない原稿があるのだが、
窓に照りつける日差しが集中力を奪っていく。
エアコンは効いているとはいえ、部屋の温度は25度だ。

「休憩しようかな。」

菜々は面倒くさそうに立ち上がると、
台所まで行き、冷蔵庫の扉を開けた。
冷えた乳酸菌飲料「カルピル」を取り出した。
菜々が幼い頃から馴染みのドリンクで、
1:3程の割合で水を入れるタイプだ。
菜々はいつも目分量で入れる。
慣れたもので、どんなグラスでもピッタリと合わせることができた。
菜々は原稿のアイデアに詰まると、
儀式のように決まってこの乳酸菌飲料を飲むのだ。

ふと、テーブルに置いてある本が目についた。

こんな本あったかな・・。

菜々は本を手に取るとタイトルを読んだ。

(幻想鉄道ドリームライン最新時刻表)

菜々は首を傾げた。
この時刻表を買った覚えはない。
発行年月日を見ると今日の日付になっている。

菜々は時刻表を開いてみた。

(ドリームラインは時刻表改訂に伴い、以下の時間になりました)

何の電車のことだろう?
菜々は不思議に思った。
更に読んでいくと次のように書かれていた。

駅   時間 (夢見方面 折り返し大宮方面は24:15発)
大宮  20:30
浦和  20:40
東京  21:05
横浜  21:25
大船  21:45
小田原 22:05
夢見  22:15
美夢郷 22:30

こんな電車あっただろうか?
菜々は乗ったことがない。
暑さが少し和らぐ夜の発車だ。
何だか、この電車に乗ってみたくなった。


◎転:星降るエクスプレスに乗って

作者:riraさん

菜々は時刻表に挟んであった切符を手に、東京駅へ向かった。

見たことのない切符だが、おそるおそる自動改札に入れるとすんなりと通れた。

夜でも多くの人が行き交う東京駅なのに、菜々の乗る予定である11番線のホームには誰ひとりいない。間違えたのかと時刻表を確認するが、やはり合っている。ほどなくして滑らかな濃紺の車体がホームに滑り込んできた。

菜々が乗り込んで席に座ると、列車はするりと動き出す。少し埃くさい車両の匂いや緩やかな揺れが、地元のローカル線を思い出させる。窓には室内の灯りが一列に映り込み、通り過ぎていく夜の街を眺めてるうちに、菜々はいつしか眠りに落ちていた。

「次は夢見駅、夢見駅に停車いたします」

アナウンスに目を開ける。停車してドアが開くと、見知らぬ男性が一人乗ってきた。同じくらいの年だろうか。彼が車両の前の方に座ると、列車はまた走り出した。

ふと窓の外を見ると、そこには遮るものひとつない星空が広がっていた。

どこまでも広がる暗闇に、煌めく星たちがひしめき合っている。手を伸ばせば届きそうな距離に、星が降り注いでいる。まるで、星の海のようだ。

「あれ?ここは..?」

街の灯りは何一つ見えない。
ずいぶん遠くまで来てしまったようだ。

時刻表をよく見ると、
夢見駅からはくちょう座が見えるらしい。

菜々が空にはくちょう座を見つけたとたん、はくちょう座が暗闇の空から切り取られ、青白く輝いて羽ばたき出した。その背には虹色に輝くものを乗せている。

時刻表にはこう書いてあった。

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夢見駅では、七夕の時期になるとまれに大きな白鳥が飛んでいくのを見れることがあります。彼はその背に人々の夢を乗せて天の川へ運んでくれます。
(※なお、今年の七夕は旧暦で8月22日です)
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「次は終点、美夢郷、美夢郷駅に止まります。ご乗車の皆さま、どうぞお忘れ物なきようよろしくお願いいたします」


◎結:終着駅の向こう側

作者:大橋ちよ

列車は滑るように美夢郷駅に到着した。時刻は22時半予定どおりの運行だ。
こんな時間に見知らぬ場所に放り出されることに少し不安を感じた菜々だったが、終着駅なら降りる他なかった。

乗客を降ろすと、列車はドアを閉めて引き返して行ってしまった。

菜々は乗って来た電車を見送ると、仕方ないので美夢郷駅の様子を見渡してみた。

美夢郷駅は静かな小さな駅だった。

先ほど見た夢見駅は夜空の中にいるような駅だったが、こちらは湖の真ん中にぽつりと浮かぶ駅だった。

海ではなく湖だ。

満天の星空の下に、どこまでもヒタヒタと広がる真っ黒な水面が続いていた。

ここまで来たら、前にも進めないし、後にも戻れない。

菜々はどうしたものかと駅のベンチに腰を下ろした。

駅にはもう一人の乗客がいた。

先ほど途中で乗って来た男性だった。

男性はこちらを振り向くと、真っ直ぐ菜々の方へ歩いて来た。
そして彼女の隣に腰を下ろした。

男性は見知らぬ人だったけれど、どこか見覚えのあるような人だった。

「ずいぶん遠くまで来ちゃいましたね」

男性が話しかけてきた。
優しい声だった。

菜々が彼の方を見ると、向こうも首を少し傾けてこちらに視線を向けてきた。
その目を細めた柔らかい表情から “いい人” がにじみ出ていた。

菜々は警戒心を解き、この不思議な場所に独りではないことに感謝した。

「よく知らないで電車に乗ってしまって…ここはどこなんでしょうか?」

菜々が言うと、男性はふふふと笑った。

「ここは美夢郷駅ですよ」

…いや…それはわかってるんだけど…。

菜々は声には出さずに心の中でそう答えると、どこまでも続く真っ黒な水面を眺めた。
夜の湖とか海って少し怖い…。

海に行きたかったんだけどな…。こんな夜の湖ではなくて、真夏のギラギラした海。

原稿を書き終えたら少し夏休みを取る予定でいたのだ。

その原稿が煮詰まっている。

今年の夏は休みなしかも…。

「さっきのはくちょう、見ました?」

菜々の思考を遮るように男性が言った。

「ええ、見ました。とても美しかった。背中が虹色に輝いていましたね」

「あれは人々の夢だと言われています。あの光景を目の当たりにすると、特別な夢が見れるそうですよ」

「特別な夢?」

男性は頷くと、すっと立ち上がった。

「そう、特別な夢です。例えばこんな」

言いながら男性はパチンと指を鳴らした。

すると真っ黒だった湖の水面がざわめき出し七色に輝きはじめた。

その輝きはだんだんと強い光となり、水面から幾つもの光の玉が飛び出して来た。

光の玉はしばらく湖の上に浮かんでいた。

菜々は驚き立ち上がり、その玉の数々を口をあけて眺めた。

その一つ一つが菜々に語りかけてくるようだった。

空中に浮かんだ玉は菜々に認識されると、小刻みに震え、順番に勢いをつけて菜々の方へと飛び込んで来た。

光の玉が菜々の体に当たると、バチッ、バチッとものすごい音を立ててはじけた。
菜々の全身に雷に打たれたような衝撃が走り、そして彼女は確信した。

…これは! 閃きだ!!!!

これまで悩んでも悩んでも思いつけなかった数々のアイディアが思考の中にあふれてきた。
それはあの光の玉からもたらされたのと同時に彼女の中から湧き出したものだった。

今までに感じたことのない多幸感が菜々を包み込んだ。

「どお? いい感じ?」

男性が言った。

いつのまにか二人は湖の上空、空高く手を取り合って浮かんでいた。

周りでは光の炸裂が未だ止まず、大変騒々しかったが、男性の声ははっきりと聞こえるのだった。

「最高!! なにこれ?! 最高なんだけどっ!!」

すっかり興奮状態となった菜々は大声で叫んだ。

それを聞くと、男性はいかにも楽しそうにあはははと笑った。

「じゃあ、もう書けるよね。戻るよ」

男性が言うと、菜々の体は猛スピードで上昇を始めた。
それはまるで水底から水面へと急激に浮上するような感じだった。

上空にいたはずなのに、不思議な感覚だった。

《アイディアはいつでも君の中にある。僕はいつでもここにいるよ》

微かに男性がそう言っているのが聞こえた。

自分の身体がすっかり最上層まで上がって来たことを感知すると同時に、菜々は目をあけた。

目をあけると自分の家にいた。
ソファーで眠り込んでいたようだ。

テーブルの上には冷えたカルピルが菜々に飲まれるのを待っていた。

…夢?

起き上がると、さきほどまでまるで先の見えなかった原稿の続きがどんどん出てきた。

菜々は美夢郷駅で会話した男性の優しい笑顔を思い出した。

…ありがとう。使わせてもらうよ。

菜々はよく冷えたカルピルを喉に流し込むと、フンっと勢いよく鼻から息をはき、書斎にもどって原稿の続きを書き始めた。

・・・

二週間後。菜々は千葉の海岸にいた。

ギラギラと照り付ける太陽。
輝く海と、その水平線に浮かぶ白く大きな入道雲。

忘れれない夏を満喫するのだ。

(おわり)


▽旬杯リレー小説 募集要項はこちら

友音さんの美夢郷の物語。
すごく気になっていました。

そして、riraさんが美しい列車の旅を繋げていただいたので、私がこれを引き継ぎたい!!! って思って書きました。

★これはリレー小説なので、これ以外の「結」を思いついた方は遠慮せずどんどんパラレルワールドの「結」を紡いでくださいましね。

銀河鉄道を思わせるこの物語。
幻想鉄道は黄泉の世界ではなく、もっと別の世界に行くんだろうなーと思ってこんな感じになりました。

いかがでしょうか??

追記:最初に折り返し運転ありって書いてあるの見逃してましたっ!
折り返しは浮上にてごめん🙏

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