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[ショートショート] 鼓舞 - そして世界は枯渇した - #春弦サビ小説
小説の途中を書く企画ですが、勢いで始まりから終わりまで書いてしまいました。
ららさんの作詞で曲をつくり、そしてお話を作ってみました。
まずは、曲を聞いてください。
『鼓舞』
からだから溢れるはじまりの振動
音と呼ぶべきか
神の啓示のような雷鳴か
熱を帯びた この身から蒸発して
期待は気体となって 上昇していく
人間の作りだした機体をも押し上げて
雲を創り出し 太陽神に焦がされる
蜘蛛の足のような継ぎ目のように
好みの雲の継ぎ目から時折 太陽神の光の一部を地上へと
人間が掴めるように 目で分かるように
雨 雪 雷
歓喜と怒涛の乞えが入り混じる
水になり 液体となって 益を得る
雨降って地固まらず
沼となり 新世界を創り出す
もっと奥へ 粘着質
やがて枯渇し 個体となり 私の鼓隊となる
鼓隊は打ち鳴らす 芯の憎悪を壊すほどに
鼓動が充満する
この身から出た振動の数々が
皆に伝染し 震えあがる
興奮と熱狂の渦は
またあらたな期待を舞い上がらせ
脈打つように鼓舞する
鼓舞 - そして世界は枯渇した -
ナギがまた泥水を掻き回していた。
長い木の棒を持ってぐるぐると熱心に泥を混ぜている。
「そんなことして、いったい何の意味があるの?」
ナミは毎日同じ質問を投げ続けた。
そうしてざっと数億年が過ぎたころ、泥水の中に命が生まれた。
だがそれは目も口も耳もないたった一つの細胞からなる極々単純な生物だった。
腕も足もないその生物はほぼ思考だけの存在。何もない泥の海を漂っていた。
「これでは果たして生きている意味はあるのだろうか…」
ナギが呟いた。
「それはこちらの価値観の押し付けではなくて?」
ナミは言った。ナギは「うーん…」と言いながら、これまで通りに泥の海をかき混ぜた。
それからどれほどの時が経ったのか、もうナギにもナミにもわからなくなってしまったころ、泥の海から四つ足の生物が這い上がってきた。
それらは周りの生き物を捕食しながらどんどん陸地に上がってきた。
ナギはそれらを嫌って持っている棒で叩いた。
「そんなふうに生き物をいじめるのをやめなさい」
ナミに言われるとナギは頬を膨らまして不服な様子だった。
「だってこいつら卑怯じゃないか」
ナギはどうしてもこの四足歩行の生き物を好きになることはできないようだった。
喰われている方の小さな生き物の方に感情移入してしまったのね…とナミは思った。
どちらか一方の状況しか見れないと、もう片方が悪のように思えてしまうのだわ…とナミは悟るのであった。
そうこうしているうちに、地上には二足歩行の者たちで溢れかえっていた。
ナギはそれらを「ニンゲン」と呼び可愛がった。自分の姿に似ていたからだろう。
ニンゲンたちはたちまち地上を支配して我が物顔で歩き回った。
ナギはそれが気に喰わないようだった。
「これだけ気に掛けてやっているのに、奴らはこちらに気がつきもしない…」
そう言ってナギは不満を述べた。
「まあまあ、かの者たちにはこちらは見えないのだから…」
あいかわらずナギはナミに宥められているのだった。
「こちらの存在を知らせてやろう…目で分かるように」
「やめておきなさいよ」
止められたところで諦めるナギではなかった。やると言ったらやるのだ。
ナギは地上に雨や雪、そして雷を落とした。
そして時折、鋭い太陽光線を地上に向かって放った。
人々は歓喜と怒涛の渦にのまれ、踊り狂うことを覚えた。
それを見てナギは嬉しそうだった。
「そうだ踊れ」
ナギは足を踏み鳴らして踊り、ニンゲンたちもそれに合わせて踊った。
やがてニンゲンたちは溶け合い絡み合って巨大な沼となった。
「もっと踊れ」
ナギが駆り立てると、沼はグルグルと渦をまいて動き、やがて枯渇した。
「ああ、そうだ、これだ。まさにこれだ」
ナギは喜びに体を震わせながら、枯渇した世界を食べつくした。
満腹になったナギは寝台に向かい、そしてゆっくりと身体を横たえた。
ナミはあきれたふりをしながら、ナギに寄り添うように寝そべった。
冷静を装いながら、ナミは高ぶっていた。衝動を抑えるので精いっぱいなほどに。ナミには伝染していた。
ナギの絶え間ない興奮と熱狂が。
次は私が…。
数億年眠ったら再び世界は混沌に還る。そうしたら今度はナミの番だ。
心臓の鼓動が、ナミの全身を鼓舞するように脈打っていた。
(おしまい)
ららさん。再び『鼓舞』の世界に触れさせていただきました。
ありがとうございます☆
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