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ブルジ・バラジネ難民キャンプを訪れた

レバノン共和国の首都であるベイルートの郊外に位置する、パレスチナ難民キャンプを訪問した。

政党の旗やパレスチナの国旗が
はためいている。

訪れたのはブルジ・バラジネ難民キャンプ (英語名: Burj Barajneh camp)。故郷を追われたパレスチナの人々が定着したキャンプの1つで、僅か1平方キロメートルの土地に約18,000人の難民が生活している (UNRWA調べ)。同国には同様のパレスチナ難民キャンプが12も存在している。

幼い頃より、パレスチナ問題に強い興味を抱いていたので、パレスチナ赤新月社 (以下、パ赤) という姉妹社の職員たちとの交わりを持てること、そして運営している病院を訪問させていただける機会を与えられたことに、胸の高鳴りを感じた。

日本赤十字社 (以下、日赤) と同様に、パ赤も複数の病院を有しており、キャンプに居住している難民を主な支援対象として医療サービスを提供している。

ドラ○もんなのか...
一瞬、恐怖すら覚える形相。

私は医療の知識を持ち合わせてはいないけれど、パ赤の医療従事者たちが持ち合わせている医療に関する知識や技術は、日本などの先進国と比較すると、数十年もの遅れがあるとのことであった。彼ら/彼女ら (主に医者) は、与えられた難民ステータスによる海外渡航の制限や、同国内での厳しい就労制限があるため、日々進歩する医療に関する理解をアップデートする機会が、極めて乏しい状態に置かれているというのが理由である。かつてロシアや東欧諸国への医学留学が、ある程度容易であった時代があったという。

限られた資源を駆使して、何十年もの間活動を続けられる様からは、言葉では形容しきれない覚悟や、故郷への想いが感じられた気がした。日赤の病院で勤務する私たちの難民支援に対する姿勢は如何だろう。国内外で起きている人道危機を認知するに至っていない人々も一定数いるのではないだろうか...。

住人にご馳走になったパレスチナ料理。
レバノン料理と大差はないそう。

現地の職員に話を伺ったところ、2011年以降隣国シリア等からやって来た難民/避難民の定着により、キャンプ内の過密度が一層深刻化しているとのことであった。また、住民たちの出身地や思想信条が多様化してゆくのと同時に、キャンプ内での限られた商業機会を巡る競争の激化や、(貧困層の中での) 貧富の格差が発生している。

70年程前にパレスチナを出て、レバノンのブルジ・バラジネへやって来たパレスチナ人は2,000人ほどであったそう。しかし、今となっては2代、3代、4代にも渡り繁栄した入植者たちの祖先に、国内外から新たにやって来る難民や、難しい事情のある人々が加わり、飽和状態となっている。

難民キャンプとは言ったものの、国連機関やNGO等の支援により、インターネットや水道、電気の供給路等は乱雑にだが、辛うじて整備されている。住居もテント等ではなく、無造作に積み上げられたコンクリートの居住空間 (スペースがないので、上に建て増ししてゆく他ない) がおおよそ世帯毎に割り当てられていて、内部は私が想像していたよりもずっと快適そうであった。私がお邪魔させていただいたお家は、日本で私が借りているアパートよりもずっと広かった。

剥き出しの電線による
感電事故が後を立たない。

ただ、上下水道の汚染は深刻であり、路地はゴミが散乱し、思わず鼻をつまみたくなるような場所もところどころにあった (当然、そんな行いは控えたけれど)。配線は無造作に組まれており、安全管理の観点からはかなり劣悪だと感じた。事実、定期的に感電事故が報告され、死者も後をたたないと聞いた。

アラビア語で描かれた様々なポスターや政治家の顔写真に混ざって、国連の機関や、日本でも認知されている国際NGOのポスターがところどころに見受けられた。何年も前に貼られたものであろう、ボロボロになった支援団体のポスターが「今まで何をしていたんだ?」と、遠い東アジアの国からやってきた私に対して、問いかけているように感じた。

迷路のように入り組んでいる路地

気が遠くなるほど長い年月、帰還を夢見ながら、絶望と怒りと悲しみを抱えて生きてきた人々を目の当たりにして、突如やって来た私の滞在目的が彼らへの「支援」だということを言葉にするのに、違和感を覚えた。

追記: 数日後に、こちらのキャンプに隣接する公道でタクシー運転手が被弾したというニュースを知った。銃弾の源は不明。大きく取り扱われていない様から、「ここでは日常茶飯事なのだな」と感じた。

補足:
- ブルジ・バラジネ難民キャンプは2019年6月12日時点で日本国外務省より危険レベル3とされていますので、渡航は止めてください (参照: www.anzen.mofa.go.jp)。
- キャンプ立ち入り前には国際赤十字・赤新月社連盟により、最新の現地情勢や安全管理確認のためのブリーフィングを受けています。
- 写真は許可を得て撮影しています。

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