ウマ娘の精神分析 第19章 メイショウドトウ -テイエムオペラオーに憧れ続ける、究極のネガティヴ思考ウマ娘-


 
 
●実在馬
 
サラブレット 鹿毛 オス→去勢
 
1996年3月25日-存命中(2021年11月現在)
 
アイルランドに生まれました。
 
父・ビッグストーンは名マイラー(1400m-1800m)ながら種牡馬としてはパッとせず、母・プリンセスリーマも出走経験なしだったこともあって、セールでの取引価格は500万円という安さでした。
 
4歳での遅いデビュー。2000年になって実力開花します。
 
テイエムオペラオー(第13章)と繰り返し対戦、なかなか勝てませんでしたが、2001年宝塚記念で勝利します。これは初のG1制覇ともなりました。
 
しかしこれが最後の勝利となり、2002年1月13日、ライバルのテイエムオペラオーと合同の引退式が京都競馬場で行われました。
 
騎手はほとんど安田康彦。
 
通算成績:27レース 10勝、2着8回(うちテイエムオペラオーへの敗北5回)、3着2回
 
 
●ゲーム・アニメの声:和多田美咲
 
 
*******
 
愛称ドトウ。
 
栗色の、肩までのカールした長めの髪に白いメッシュ。白い髪が一筋頭上にクルッとはねています。勝負服は白のブラウスに青い長いスカート。
 
レースの最中も、赤いバックを肩からぶら下げています。おそらく、これは両親から愛された証(あか)しの「お守り」のようなものです。

いつも身体をすくめ、怯えたような目をしています
 
本人が語るには、両親は「すごい子だ」言ってくれていたようです。
 
幼い頃、レースを見に来て、輝かしいウマ娘たちの姿に、最初は「住む世界が違うという<疎外感>(本人の言葉)」を感じましたが、自分もたくさん頑張ればあんなふうになれるかもしれないと思い、長じて、勢いでトレセン学園を受験したとのことです。
 
「ドジでダメでグズで何もできない」繰り返し自分のことを言います。
 
実際、うっかりミスが多く、一度ドジを踏むと事態は悪い方ばかりに展開します。そそっかしく、しょっちゅうコケてばかりいます。
 
トレセン学園入学式の時から、テイエムオペラオーの自信ある態度には憧れていました。
 
ある日、オペラオーにどういうわけか見そめられて、学内の模擬レースで相手役を務めるように求められます。
 
彼女は「最高のレースにするんだ」と、必死に練習します。
 
模擬レースの日、ドトウはオペラオーに一度は追いつかれ、引き離されますが、諦めることなく追走、もうちょっとのところで追いつける形でゴールします。
 
オペラオーは、
 
「君はこのショーの功労者だ。不屈の精神を持つ彼女に、みなさん、拍手を!」
 
と、自分から手をたたき出します。
 
「私は迷惑をかけてばかりいる」という彼女に、トレーナーは内心、どれだけ迷惑をかけてくれてもいいのだと思います。
 
「がんばりやさんだね。諦めが悪いのが君の長所だ」というトレーナーの言葉に
 
「あなたがいたら、変われる気がするんです」
 
育成が順調である限り、史実通り、メイショウドトウは、テイエムオペラオーと何回も対戦していくことになります。
 
*******
 
すでに書きましたが、彼女は、両親に、「すごい子だ」と言われて育ちます。失敗や欠点をあげつらわれ、「お前はダメな子だ」と言われて育ったのとは正反対です。
 
ダメな子と言われて育てば、自己肯定感の低さから、何かをしようとしても、臆病になるばかりで、決心もつかないし、はじめたことも、ちょっと失敗すれば投げ出すことが少なくないはずです。
 
ところが彼女は「諦めが悪い」。
 
実は、こうした「諦めの悪さ」は、「自分はダメだ、弱い」と自己卑下ばかりする人に、むしろしばしば見られることのように思います。
 
自分の理想と現実のギャップを自分で許せないだけなんですね。実は要求水準がたいへん高い。
 
こういう子供は、かえって注意散漫になり、ドジを踏みやすくなるように思います。
 
それでもしぶとく生きてこられたということは、それだけ忍耐強いということにもなります。
 
一般には、次第に現実の自分を思い知らされるにつれ、自分への評価が下がり、理想の自分を低く見積もるようになると言われています。
 
「身のほどを知れ」・・・よく言われる言葉です。
 
本来は「人が一生のうち社会でできる役割は限定されているから吟味して選びとれ」といった意味あいなのだと思いますが、正直に言って、この言葉を他人に口にする人の中には、挫折を繰り返し、現状の自分を慰め、それを人に押し付けているだけというのが含まれていると思います。「どうせお前もこれくらいだ」と。
 
しかし、自分を、いくら迷惑をかけてもいいから、ありのままに受けとめ、支えてくれる人がいると、むしろ自分の理想像の方に現実の自分が近づいていきます。
 
これは、受容と共感的理解を大事にする、来談者中心療法の創始者として、カウンセリングの世界では有名な、カール・ロジャーズが、多くのカウンセリング記録と、Qテクニックという、一種の心理検査を、同じ人に繰り返す実証研究の中で明らかにしたことです。
 
オペラオーは、お前はダメな人間だから、私に従え、とは言わないのです。新時代を切り開くための「同志」と呼んでいたメイショウドトウがライバル宣言をしたときには、少し驚きますが、受けて立ちます。
 
よく、ネガティブ思考をポジティブ思考に、といわれますが、自分でこれを変えろと言われてもうまくはいかないものです。かえって、自分をよく見せようとばかりする方向に走り、足が地につかなくなり、むしろ失敗を呼び寄せます。
 
むしろ、自分の弱さを「認める」ことができる人のほうが強い。
 
「強さ」しか他人に出せないと信じている人のほうが、いざとなると脆(もろ)い。
 
そのためには、単におだてるのではなく、その人のリアルな実情をありのままに共に受けとめ、本人が成果を上げたと感じた時は一緒に喜び、適切な距離を取りながらも見守り続ける人が、ひとりでもいいから必要なことが少なくないと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?