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無印チカゼを卒業します。

チカゼ、と最初につけたのは、実はフリーのライターになるより前である。そのときぼくはとある出版社の新人賞に応募しようとしていて、でもペンネームがどうにもこうにも決まらず、ずっと悩んでいた。

そんなときにたまたま、TV でUFCがやってて、そこに映っていたのが「ギガ・チカゼ」だったのだ。

フェザー級総合格闘技選手。ジョージア出身。めちゃくちゃ強い。でもなんかわりと可愛い顔してる。目なんかきゅるんとしてるし。チカゼ、いいじゃん。響きも珍しいし、でも覚えやすいし被らなそうだし。

てことで3秒で決まった。雑である。雑すぎる。こんなに雑に決めたのに、今じゃ本名よりも自分に馴染んでるから不思議である。「チカゼさん」と呼ばれれば迷いなく振り向くことができる。

しかし、しかしだよ。独立してから丸2年経ったころから、罪悪感に駆られるようになっていったのだ。ぼくが「無印チカゼ」みたいな、あたかもチカゼ代表みたいな顔してんの、おかしくない?

MacBookでいうところのスタンダードモデルですよ〜なんてツラしてしれっともの書いてることに、申し訳なさが募っていきまして。ギガ・チカゼに失礼すぎる。そしてなにより、Twitterをあさってみたところ、「チカゼ」の名前で音楽活動をしてらっしゃる方を見つけてしまった。しかもその方は無印チカゼではなかった。

ていうことで、苗字をつけようと決めた昨年。これがなかなかに難航することとなった。

「よくある苗字」をつけたかったけど

ところでぼくは家父長制に断固反対のフェミニストである。で、苗字ってfamily nameじゃないですか。家父長制ゴリゴリな感じがして、それでずっと「チカゼ」だけにしていた、というのもある。

だから呼ばれるなら、「チカゼ」がいい。村上春樹とか夏目漱石が「春樹」「漱石」と呼ばれるみたいに、「チカゼ」とつい呼んでしまうような印象の薄い苗字がいい。

そう考えて昨年決めたのが、実は「斎藤」でした。

斎藤チカゼ。斎藤さんはこの日本でめちゃくちゃ多い。よくある苗字代表。「斎藤さん」だけだったら、誰を指すのかわからない。そしたら自動的に「チカゼ」と呼ばれるはずだ! そんな感じで8割決めていたのだけど、なんだかどうにもしっくりこなかった。

なんだろう、明確な理由を示すのも難しいほど感覚的なものなのだけど、なんとなく違和感が大きい。これ! って感じがしない。ピンと来ない。そして夫から「検索性を考えるなら珍しい方がいいんじゃない?」と助言を受け、あえなく斎藤は却下となった。それが昨年末の話。

おばあちゃんからもらおう!

振り出しに戻った苗字問題。うんうん悩んで、そして閃いた。family nameならいっそ、血縁者の中で唯一好ましく想っていた祖母からもらうのがいいのでは? と。

おばあちゃんの名前は、手塚治虫『火の鳥』を思い起こさせるような名前だった。派手だしかっこいいし、強そうだし縁起がいい。そこから連想していったいくつかの候補。そしておばあちゃんの旧姓なんかからも着想を得た名前をメモ帳アプリにリストアップして、そのスクショを友人たちに見せて回った。ねえねえ、ちょっと相談に乗っておくれよ。どれがいいと思う? てな感じで。

そしたらびっくり、noteやTwitterで繋がってるもの書き仲間さんと、学生時代の友人たち、人気のある3候補が双方間で一致していた。これでグッと絞り込めた。さて、ここからどうしよう。ていうか、名前と苗字の順番どうしよう。

姓名でいくか、逆にするか。

もともと「チカゼ」に惹かれたのは、「日本人なのかそうじゃないのかわからない」響きだったから。日本と韓国とロシアにルーツを持つぼくは、自分のことを「何人」だとも思えない。それこそ性自認でいうnonbinaryみたいな、もしnon-raceっていう言葉があったらそんな感じ。

だったらそれを強調するために、姓名を逆にしたほうがいいんじゃないか。なによりぼくの好きな小説家は、欧米英の人たちが多い。文章のルーツもそちらにあるのだから、そちらの様式に従うほうがペンネームとしても正しい気がした。ペンネームに正しいも何もないけど。

ところがどっこい、もの書き仲間たちは8割方「姓名のほうがしっくり来る!」という意見であった。響き、全体のまとまり、手書きしたときのバランスの取りやすさ。チカゼに「風」のような流れを感じるからそれを滞らせないほうがいい気がする、というアドバイスも興味深かった。うれしい。あんな適当な付け方した名前なのに、わりに素敵な意味を想像してくれる方が多い。ありがとう、チカゼ(本家)。

しかし学生時代の、ぼくの書いているものを普段読んでくれている、「チカゼ」でないぼくを知っている友人たちは、なんと8割方「姓名逆がいい!」と主張した。キャッチーさ、インパクト重視。「珍しいから一度見たら忘れないと思う」というのもなるほどたしかに頷ける。

えええ、どっち。どっちにすべき? わかんねえ。でも、とりあえず姓名と名姓でそれぞれしっくりくるものを決めちまおう!!

姓名だったら絶対これ! で決まりかけた。がしかし

候補3つの中でいちばん人気があったもの、それが何だったかは表に出すつもりはない。だから相談に乗ってもらった方も、お口チャックしといてくれると嬉しいです!! そのイメージがついちゃうと、せっかく決めた名前が揺らぎそうな気がして。

で、そのいちばん人気のやつが、姓名のスタンダードな順番で並べたときに、響き的にも雰囲気的にもものすごくしっくりきた。いいじゃんこれ。70~80年代耽美派少女漫画家みあって、けっこうグッときてたのだけど。姓名判断の無料診断に入力してみたところ、画数が最悪という問題にぶち当たる。

画数。まじか、そこまでか。天格も人格もぜんぶ凶。薄幸で、中途挫折運が付きまとい、孤立しがち。災厄にも巻き込まれがちな人生になるらしい。最悪じゃん!! 「チカゼ」の字画がそもそも悪い、ということもここで初めて知った。嘘でしょ。

いや、でもぼくはそもそも、占いの類いはいいことしか信じないタイプだし。本名も画数最悪だけど、改名のときまったく迷わなかったし。無視すりゃいいよこんなもの。いいことだけ信じよう占いは。……と言い聞かせたものの、悪いイメージがついちゃうとなんだかな、となってしまうのが人のサガである。

決まりかけてたんだけどなあ。気に入ってるんだけどなあ。もの書きさんたちに人気ってことは、ペンネームとしてかっこいいってことだし。でも、でも……となって最終的に却下にしちゃった。

響き、まとまり、キャッチーさ。すべてを兼ね備えていたのは

一方で名姓の順にするならこれかな、となったのが七竃である。「竈」のはねの部分が動物のしっぽみたいに見えるのもいい。しっぽだったら最後に持ってくるべきだろう。かまど、キャッチコピーであるヤケド注意とも合うし。

なによりナナカマド、縁起がめちゃくちゃいい。「大変燃えにくく、7度竃(かまど)にくべても燃え残る」「7度または7日間竃で焼くと良質の炭になる」「この材で作った食器は7世代も使えるほど強い」などの逸話もさることながら、花言葉も最高だ。慎重・安全・賢明・用心。フリーランスの身としては非常に心強いものばかりである。そしてなにより、字画がいい。

天格と外格は吉、人格はなんと大吉。総格も吉。いいじゃんこれ。

でもなあ。姓名逆にすると、どっちが名前でどっちが苗字かわからんくならん? と悩んでいたんだけど、「そもそもそれはっきりさせる必要ある?」という友人の言葉にハッとした。

たしかに。ぱっと見でわからせる必要性って、別にない。「どっちだろう?」で興味を引くのもアリでは?

姓名派の方々からもらったアドバイス、響きやまとまりも、口の中でぶつぶつ呟いてみたら悪くない気がする(姓名で最有力候補だったやつは逆にするとしっくり来なかった。)。それから、ある方にいただいた「あとから意味付けして想いを入れていくのもいい」という言葉。これに背中を押された。

というのも、調べてみるとナナカマドの分布地域は日本を中心に朝鮮半島も入るらしい。
https://love-evergreen.com/zukan/plant/9233

え、ルーツ入るじゃん。じゃ、もうこれしかなくない? 響きもまとまりもいい、キャッチーさもある。あとついでに思い出したから書くけど、桜庭一樹の小説に絶世の美貌を持つ少女が出てくるのだが、その子の名前もそういえば「七竈」だった。その子本人はあまりに浮世離れした自らの容姿に悩んではいるけれど。手書きしたときのバランスも、「ゼ」と「七」の形が似ているから取りやすい。竈は覚えます。

てことで、チカゼ七竈になりました。

決定です。数日悩んで、けっこう自分の中では「これしかない!」と思えている。ずっと3音だったのにいきなり8音になったのでなんだか長えなあという気がまだしてるけど、でもそのうち慣れるでしょう。あき竹城なんかも、不思議と最初っからどっちが名前だ? って迷わないじゃん。昔からいるからね、あき竹城は。あき竹城、強い。ご冥福をお祈り申し上げます。

もの書き仲間さんたちにあんなに相談しておきながら結果的に意見と異なる名前を選んだの、「なんだよじゃあ相談すんじゃねえよ!」とか思われそうでちょっと不安。いや違うんだよ! アドバイスは取り入れてる! だから許して!!

そんな感じで苗字が決まりました。でも最初に書いた通り、ぼくは「チカゼ」って呼ばれるのが好きです。これからもチカゼさんやらちーちゃんやらちいくんやらチカゼくんやら、お好きに呼んでください。

これから先、七竈さんとか呼ばれる日が来るんだろうか。

おしまい!!



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