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SHAME -シェイム-(感想)_性依存症に苦しむ男の哀れさ

「SHAME -シェイム-」は、2012年日本で公開したイギリス映画で、監督はスティーヴ・マックイーン。性依存症に苦しむ独身男性ブランドン(Michael Fassbender)と、その妹を中心に、二人の抱える苦悩が描かれた作品となっている。
以下は、ネタバレを含む感想などを。

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少ないセリフから伝わってくる苦悩

ブランドンはマンハッタンに住んでおり、年齢は恐らく30歳半ば~40代前半、ルックスの整った男性で会社では管理職をしているため社会的には成功している。
しかし、ブランドンは性依存症に陥っており、家へコールガールを呼んだり、行きずりの女と野外行為をしたり、オフィスのトイレで自慰行為をしたりと、性欲を収めるために日常生活の多くの時間を費やしている。

そんなときのブランドンの表情は、ほぼ無表情で憂いを帯びており楽しく無さそう。明るい表情を見せるのは、同僚女性のマリアンヌ(Nicole Beharie)とデートするときくらいか。
そのデートですら、店員とのぎこちないやり取りや、マリアンヌとの会話の様子から、ブランドンが女性とのコミュニケーションをセックス以外でほとんどしてこなかったことが想像される。

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ブランドンの行為は、セックスの享楽的なイメージとは正反対で、快楽からはかけ離れている。
性欲は作業として処理しているかのようで、本当に好きになった女性相手には身体が反応せず行為を行えない。それは性欲を処理する行為を自分自身への罰のように行ってきてしまったからこそ、身体が反応しなくなってしまったのかもしれない。

そんなブランドンの抱える苦悩について、本作ではあまり多くのセリフを使われず、カメラの長回しによる演出が多用されている。
ブランドンの上司デイヴィッド(James Badge Dale)と妹のシシー(Carey Mulligan)が自分の部屋で行為を行っていることに耐えられず、逃げ出すように街をランニングするシーンがとくに象徴的。

兄へ依存している妹のシシー

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仕事と性欲を処理するだけだが、シンプルな生活を送っていたブランドンのもとへシシーが家に転がり込んで来ることで変化がおきる。
社会的に自立しており、自分の感情を抑えて人と接するブランドンに対して、シシーは感情を前面に出して人とコミュニケーションをする。しかし、情緒不安定で腕にはリストカットの後があり、「男に依存する」ような言葉を電話で話している様子はブランドンとは正反対だ。

ブランドンは自宅での自慰行為をシシーに見られたことをきっかけに、マリアンヌとセックス抜きのデートを試みて、いざ行為に及ぼうとするも身体が反応せず出来なかった。

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二人の兄妹は一緒にいることで泥沼化していき、シシーが他の男に溺れるほどブランドンは自暴自棄になり、シシーはそんな兄に対してさらに強く依存するようになるため、いい関係性にあるとはいえない。
また、ブランドンとシシーはアイルランド出身だが、NYへやって来た理由や、両親については語られず、二人の過去にどんなことがあったのかという具体的な説明はない。
しかし、性依存症は親からの虐待が原因になることがあるため、二人は虐待を受けて育った可能性がある。二人に共通するのは自己肯定感の低さにあって、異性とのコミュニケーションにセックスがつきまとうのは、他者から認められたいという欲求がつきまとっているからなのかもしれない。

あまり救いのないエンディング

シシーに家を出ていくように吐き捨てたブランドンは(恐らく異性愛者なのに)ゲイ・クラブを訪れたり、娼婦と乱交プレイをするもどこか痛々しい。
シシーは家から出ていくように言われて感情的になりリストカットし、血まみれの状態でバスルームで見つかるが病院で目を覚ます。
妹の生存を確認し、川岸でひとり泣き崩れるブランドンの様子から、やはりシシーが大事な妹だということが伝わってくる。
当然、家族だからというのはあるだろうが、親しい友人のいないブランドンの孤独を埋めてくれる、数少ない存在だからというのもあるのだろう。

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ラスト、以前にブランドンが電車内で執拗に見つめた人妻に再会し、女性が電車から降りようとするのをブランドンが視線を逸らさずに見つめるシーンで終えるが、この後にブランドンはどんな行動を取るのか。

結局、ブランドンとシシーを取り巻く環境は何も解決していない。むしろ二人が抱えている問題からは抜け出せないことを再確認させられたという状況だ。いずれにせよ、解決策は提示されないままに終わる後味の悪いエンディングとなっているが、そのために二人の今後を想像させる余韻が残る。
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選曲が私の好みと合っていた。自宅でシャワーをしているシシーと再会するシーンでは、私の大好きな曲、Chic「I Want Your Soul」がかかるのだが、好きな人とのまともな関係を築くことのできない兄妹の状況に重ね合わせると切なくなる。
また、バーでシシーがしっとりと歌い上げる「New York, New York」もグッとくる。Carey Mulliganのアップでの歌唱とブランドンが静かに涙を流すだけのシーンなのだが、二人の辛い過去を想像させる。


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