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スルガ銀行かぼちゃの馬車事件(感想)_不動産投資の難しさについて

『スルガ銀行かぼちゃの馬車事件』の著者は大下英治で2021年2月に出版されていた本。
被害者の立場から事件の全体像が書かれているから、事実だけを淡々というより文章が情緒的になっているからそのつもりで読む必要がある。
不動産投資をするつもりは無いけど、似たような詐欺に巻き込まれないよう、自分なりに内容を整理して咀嚼するために以下、備忘メモと感想などを。

被害者へ同情的な構成と文章

『かぼちゃの馬車事件』の大まかな概要としては「利回り8%、30年間家賃保証」という謳い文句にのせられた人々がスルガ銀行から融資を受け、不動産投資として女性専用シェアハウス(かぼちゃの馬車)を購入したが、やがてシェアハウスを運営していたスマートデイズ(2018年に破産手続き開始)がサブリースの値引きや停止したことで、投資詐欺だったことが明らかになっていった事件。

実際は銀行だけではなく、かぼちゃの馬車を運営していたスマートデイズや、その下請けの建築会社が一緒になってシェアハウスのオーナーをはめ込んでいるのだが、本のタイトルがスルガ銀行にピックアップされているのは被害者たちの負債を効率的に帳消しにするため、スルガ銀行へ的を絞って裁判を行われているから。
そのため本書はオーナーたちへ融資をしていたスルガ銀行に対して、代物弁済を勝ち取るまでの過程が中心に書かれている。

融資の規模が本書に記載されていた。
スルガ銀行の第三者委員会による調査報告書の内容によると平成30年(2018年)3月末時点で以下のとおり。

融資対象者:1258人
融資残高:2035億8700万円

P243

本書は代物弁済をゴールに、「騙された被害者」と「杜撰なからくりを把握しながら融資したスルガ銀行」という、善悪の対立構図で書かれているから読み物としてはそれなりに楽しめるが、被害者に対して同情的でもあるから情緒的な文章になっていることを念頭に置かないと、事件の全体像を冷静に把握することがしづらくなると思う。

とはいえ、読んでみての気付きとして「誰がどのようにして騙したのか」ということが具体的に書かれているから、不動産投資において銀行、シェアハウス運営会社、不動産会社、建築会社、弁護士などのそれぞれがどのような利害関係にあるのかが分かって良かった。

いくつかの不正の手口について

被害者たちにはそれなりの収入と社会的な立場、さらに団結して銀行から代物弁済を勝ち取る強い意志や知恵があった。
スルガ銀行にしたって返済能力の無いような人へ融資などしないだろう。
つまり社会でそれなりに稼いでいる人たちが詐欺に遭っているのだが、そのような人たちがなぜ投資詐欺に引っ掛かってしまったのか。印象に残ったいくつかの要因をピックアップしてみる。

不当に高額な物件を買わされていた

まず相場よりも割高な価格で土地を購入させられている。建物自体もリビングなどの共有スペースを排除して代わりに部屋数を増やしたような劣悪な建物だから、物件紹介サイトから掲載を断られるケースも。
狭い部屋に押し込めて派遣会社へ職業斡旋される様子はまるで昭和のタコ部屋だが、セールストークでは女性たちに都市圏で働ける機会を与える社会貢献の意味合いがあると訴えていたのと、入居率が高いという謳い文句を信じていたのだろう。
しかし、購入額に見合うだけの家賃を取得出来るような物件ではないから、土地や建物を手仕舞いしたくても、売却額は購入価格から大幅に下回っていた。

賃貸以外の収入アピール

資生堂が入居者をモニターとして活用することでスマートデイズへ出資している、また人材派遣会社のアデコと契約しているなど、家賃以外の収入をアピールすることでスマートデイズへの信頼感を高めていた。
大手企業の名前を出して顧客を安心させるのは、まっとうな企業でも行われているからきちんと実数を把握しないと、営業マンの言いなりになってしまう。

銀行による融資

スルガ銀行は3.5~4.5%という高金利で融資をしており、自己資金の無いオーナーには通帳などの原本コピーを偽装したり、手付金等の領収証偽装もしていたとのこと。
銀行が強気に融資をしたのはスマートデイズが倒産したところで、オーナーからローンを返済させれれば問題無いという目論見があったのだろう。
このような体質の銀行であったのに、当時の金融庁長官から「地銀の新しいビジネスモデルをつくり上げた」とお墨付きを与えられていたのも忘れてはならない。

サブリースの実態

入居率が90%を超えるという嘘のセールストークもあったようだが、実際の入居率は低く、スマートデイズは建築会社からのキックバックをコンサル料としてサブリースの原資にしていた。
新規顧客の契約を増やしてサブリースへ資金を回す自転車操業は、ポンジ・スキームのそれと同じだ。
本書には、シェアハウスを建てすぎたことによる供給過多が不味かったと指摘するオーナーのエピソードが記載されていたが、そもそも仕組みが長続きさせるビジネスになっていないのだから、そういうことではない。


さらに二次被害としてスマートデイズがサブリースの打ち切りを告知すると「被害者救済支援室の案内」が別途、被害者へ届いたという。
これは被害者を救済すると称してコンサルタント料を騙し取る業者で、藁にもすがりたい心理へつけ込む行為となり、依頼料として200万円を振り込んだ人たちの事例も書かれていた。

不動産投資詐欺に引っ掛からないために

上記したとおり、本書は被害者の立場から書かれているため、シェアハウスを購入した人たちの落ち度についてはあまり触れられていない。
しかし1億円もの融資を受けて物件を購入するのだから、事前確認が不足していた点もあったと思うため以下に列挙しておく。

意図としては被害者を責めたいのではなく、被害者が代物弁済を勝ち取れたのは、優れたリーダーシップと粘り強い交渉、さらには有能な弁護士に出会えたということなどのおかげであって、代物弁済を勝ち取ったのはかなりの特殊ケースだったと考えているから。
だから、そもそも詐欺を事前に回避するための自分への戒めとして。

現地に足を運んでいないオーナーがいた

女性専用で男性は中に入れないというなら、せめて図面を見れば共有部分が無いことは分かる。それによって家賃が周辺の相場と比較して適正なのかということは分かったと思う。
間取りをタコ部屋にした時点で、家賃は低く抑える必要があるのだから。

契約書の読み込み

多くのオーナーが会議室で急き立てられるようにして大量の書類へサインさせられたとあるが、1億円もの融資を受けるのに契約書を読み込まないというのはどうかと思う。
仕事であれば1億円もの案件を契約するのなら複数人で読み込んで、疑問点があれば質問するくらいのことはするだろう。

購入した土地の適正価格の把握

建物の建築価格はプロに聞かないと分からないかもしれないが、土地の相場は周辺の価格を調べれば分かるのではと思われる。

サブリースへの信頼

35年保証などと謳っておきながら、2年契約で更新時にサブリースの金額を下げられるなどのトラブルは検索すればいくつもヒットする。
企業が赤字を被ってまでオーナーへサブリースを払い続けることは無いのだから、サブリースを信頼するのはやめた方が良い。


似たような不動産投資だと、ワンルームマンション投資の広告をよく目にする。
数年前には有楽町駅前を歩いていると営業マンが道行く人へ声を掛けているのをしょっちゅう見かけたし、2024年現在でも検索サイトで”ワンルーム投資”と入力すればリスティング広告が検索結果にがっつり表示される。
なんなら東洋経済などのニュースメディアで記事広告を掲載させて、人々の信頼感を醸成していたりするから侮れない。

しかしワンルームマンション投資はほんの一握りの人しか利益を出せず、投資後に手仕舞いしたくとも、サブリース契約のおかげで売却もままならないという話しを聞いたことがある。

さらに”ワンルーム投資 やめたい”で検索すると、売却のための手続きを行う弁護士や不動産会社のリスティング広告が表示される。
これは投資を勧める会社と、その売却手続きを行う会社でのマッチポンプなのではと疑われ、かぼちゃの馬車の二次被害を連想させる。

サブリースが支払われなくなったら、オーナーには資産形成どころか逆に負債が残ったというのが、0時に魔法が解けて立場が一転したシンデレラのようだが、そこまで計算して「かぼちゃの馬車」と名付けていたのなら、かなり皮肉が効いている。

庶民階級からいきなり王族へと成り上がったシンデレラは価値観の違いによって、幸せになれた可能性は低いと考えているのだけど、そもそも自分にだけ儲かる話しがやって来るなんてラッキーなことはシンデレラがその後に幸せになれた可能性よりも低いと思う。


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