経験について

025  経験について

1.「食べることと出すこと(頭木弘樹著)」を読んで 霜月二十五日

―p. 130-132 つまり、こういうことは経験しないとわからないのである。(中略)経験しなければわからないことを、経験した人がいる。(中略)病人や障害者の苦労話とか恨み言とか感動話とか、そういうことではなく、「経験の先覚者」として、その経験を話し、それに耳を傾けてみる。

 全ての人が「経験の先覚者」である。特に、年の差、生きている年月が長いほど物理的に経験も多くなる。

―p.268 『本当はそういう人ではないのかもしれない』という保留付きで、人を見たいものだ。

 これは、「経験の先覚者」に出会えた人が至る境地ではないか。いや、その人が「経験の先覚者」であると認識できた人が至れる境地である。

―p.313-314 『災害にしろ、病気にしろ、経験した人としない人とではものすごい差がある。一生懸命想像はするけれど、届かないものがあるということを忘れてはいけないと思う』山田太一(中略)ソクラテスの「無知の知」ではないが、「いくら想像しても、経験していない自分にはわからないことがある」というふうに、みんなが思ってくれれば、たいへんな違いだ。

 ひとは、互いに理解の及ばないことが必ずある。経験や価値観の違いにより対立することがあるが、それはどちらかが悪役ということではないのだ。

2.草取り草子(1985, 福田克彦) 師走七日

 とある文化人類学の授業で、染谷カツさんというおばあちゃんの半生を描いた映像を見た。何かを成し遂げた偉人というわけではなく、毎日を着実に生きてきたおばあちゃんの映像である。しかし、彼女も今私たちとは全く異なる時代を生き、彼女なりの人生を送ってきた。日常にも見える語りの中に彼女の生きがいや思想、喜怒哀楽を見出す。それができなければ、今の自分の日常に何を見出だせるというのだろうか。

3.株式会社kotatsuの皆さんにお会いして 師走八日

 高齢者の支援には全く興味がなかった。しかし、先生の案内で少し興味を持って、お話を聞いてみることにした。大変素敵なプロジェクトだと感じた。オンラインで高齢者の話を聞く。認知症で短期記憶もままならない利用者さんが数か月後には過去の話を語ってくれる。身なりもきれいにして変わっていくのがはっきりとわかった。

4.Titanicを見て 師走八日

 タイタニック号を探索し、宝物を探そうとする者、タイタニック号がどのように沈んだのか生存者(Rose)に解説する者。Roseは解説に対して、私が体験したのはそのようなものではなかった、と語る。彼女は、「経験の先覚者」だ。そしてまた、この映画もひとつの表現型として、見るものに彼女あるいは史実の経験を伝えようとし、Roseの語りによって経験した者にしかわからないことがある、ということを逆説的に訴えかけている。
 長く生きた人は、生きている人は、それだけ生きられる糧があるのではないか、と考えるようになった。Roseにとって、Jackという存在があったから百歳を超えて生きることができたのではないだろうか。

12/12, 2022 月曜日
名称一部変更

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