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他者の発見

「『他者』をどう位置づけるか?あるいは、自分が『他者』として位置づけられたらどうするのか?──『他者』の存在を前提にして、新しい世界は開かれるはずだった。だからこそ、左翼思想の中から『女性運動』も生まれる。『男ばかりの世の中』に『女』としてある自分はどうなのか?──女性運動も『他者の位置づけ』なのである。だからこそ、これらの運動は反発を買う。多くの人間達にとって、『自分達の社会』は『自分達の社会』として一つであり、そこに『他者』などという異物が存在するはずはないからである。
もし、そこに『他者』というものが存在していたら、それはただ『敵』なのだ。自分を『搾取される貧者』と位置づけたら、『富める他者』は敵になる──『他者』を発見して、共産主義はたやすく『敵』を作った。『他者の発見』は、『愛の発見』であり、『不和の発見』であり、『敵の発見』でもあった
それ以前、思想は孤独でもよかった。『他者』は、孤独で自由な思想者の妨害をする、不快な存在だった。リベラルの左翼嫌悪は、そのためだろう。孤独を前提にして自由だった思考は、『他者』と出会って戸惑っていた。しかし、『他者』は存在するのである。『他者』という不思議な要素の登場によって、その後の世界は、不思議な“対立”に覆われて行く。我々の現実は、ここから直接続くのである。」

橋本治『二十世紀』


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