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歴史はあきれるほど変わらない

「革命後のフランスにはなにが起こっただろう?『革命の結果国内は大きく揺れ、やがてそこから独裁者が登場する』である。革命後のフランスに起こったことが、そのままこの地にも訪れる。ドイツのヒトラー、イタリアのムッソリーニ、ソ連のスターリン─国内の混乱の中から独裁者が生まれる。彼らは“一世紀ほど遅れて来たナポレオン”なのである。
フランス革命の理念を掲げて他国に進軍した皇帝ナポレオンは、結局のところ、『思想を掲げて他国を侵略した人』である。第一次世界大戦は『利益を求めた国家間の戦争』だったが、その後の第二次世界大戦は“思想戦”になった。侵略戦争を仕掛ける側は自分達の“正義”を訴え、“思想”を唱えた。これに対する連合国軍も、『ファシズムからの解放』という“思想”を掲げる─つまり、時代はいつの間にか『18世紀末のナポレオン戦争の時代』に逆もどりしていたのである。
ナチス・ドイツは、ナポレオンがロシア遠征に出発したのと同じ日を選んでソ連侵攻を開始した。第二次世界大戦後、ソ連が旧ハプスブルク家の支配下にあった東欧を社会主義圏にしてしまったのも、『ヨーロッパの解放者』を自認したナポレオンと同じである。革命以後のロシアの独裁者スターリンの矛盾したあり方は、“共和国の皇帝になったナポレオン”と同じなのだ。あきれるほど、歴史というものは変わらない。
ナポレオンに対抗したハプスブルク家は倒れ、そのことの意味が理解されないまま、いつの間にか“ナポレオンの亡霊達”が生まれていた─ナポレオンほど華麗ではなく、ナポレオンよりもっともっと思想的に厄介な亡霊達。歴史はあきれるほど変わらないのだ。
各国に“革命”をもたらした第一次世界大戦は終わった。そしてその時、ヨーロッパ大陸には、フランス革命後の混乱と同じような状態が静かに広まっていた─それが1918年なのである。」

橋本治『二十世紀』上


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