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幸福とは、自分を受け入れてくれる場所があること〈日めくり橋本治〉

橋本治「桃尻娘」の主要登場人物の一人、醒井凉子(サメガイ・リョーコ)。
高崎出身のお嬢様である彼女は、ピンク色の霧に包まれているような、捉えどころのない人物です。
シリーズ最終巻である『雨の温州蜜柑(おみかん)姫』は、まるまる一冊彼女の物語。

厳格な父と身勝手な母に振り回されて、自我を持つことなく、自身を客観視する目も持たずに成長した彼女が、初めて周囲の反対を押しきり、学問の街・オックスフォードに留学します。

学問の町では、『それを話す人間がどんな人間か』ということはあまり問題ではない。『その人間の話すことによってその人間がどんな人間かが決まる』というのが、正しい知性の世界のあり方である。

だから、

ここで人と話をするということは、『今までの自分を全部チャラにしてもいい、話してる分だけ新しい自分が出来上がる』ということ

で、

そうか、ちょっとずつ自分を作っていってもいいんだ。人と話をするということは、〝私はこういう人間でありたい〟というアピールをして行くことで、アピールした分だけそういう人間になれて行くということが可能だとしたら、こんな素敵なことってないじゃない

醒井凉子は、そうして自由になって、

自分にとって〝幸福〟ということは、自分を愛してくれるというような人があることではなくて、自分を受け入れてくれる場所があることなのではないか

と気づきます。

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