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結婚という「決断」

「結婚自体には『どれが正しい選択か?』なんていうことはない。それぞれのあり方に応じて、それぞれの結婚の形は違う。だからこそ『結婚は生活のあり方』なんだという風に考えたほうがいいと思う。
自分が大学を出て、就職をして、恋愛をして、交際相手の女もいて、それで『あとは結婚だけ』ということになって、『人並みに結婚をする、しかし人並みの結婚はしたくない』というような、服やインテリアを選ぶみたいな感覚で結婚のことを考えたって、もうしょうがないと思う。そういう『インテリアとしての結婚』は、今の時代に無意味だと思った方がいいと思う。結婚はすなわち『決断』で、その決断は、『結婚するかどうか』の決断じゃない。『自分は、この先どういう生活をして行くか』という、ファッションという上っ面とはアンチの方向に行く決断なんだと思うしかないでしょうね。」
「重要なのは、人間はなんらかの形で他人との関係を持つ─そのかかわりによって『自分の生活』なるものが生まれて来るのだということ、それを知ること。
『結婚に関する前例はあっても、自分達の結婚に関する前例はない』─こう思うしかないところが、現在の結婚の困難なんです。」

橋本治『春宵小論集』

 梅が咲き始めて、着る服が一段軽くなったら、気分はもう春。いそいそと取り出して読み始めたのは、『春宵小論集』。橋本治四季四部作を季節ごとに読むプロジェクト第3弾の始まりです。
 本書冒頭は、一年にわたり雑誌に連載されていた連作エッセイ「A SONGBOOK FOR HOLLY GOLIGHTLY」。Moon RiverやTennessee Waltzなどの歌詞とその翻訳、曲にまつわるエッセイが12曲分。『恋の花詞集』の前に読むのにもピッタリだとも思ったのでした(今読んでいる『完本チャンバラ時代劇講座』のあとは『恋の〜』を読む予定)。
 人生に関するおよそ全てのことについて書いたとも言える橋本治なので、結婚について書かれた文章はいくつもあります。タイトルがそのものズバリの小説『結婚』もある。橋本治の最新情報に常にキャッチアップするため、「橋本治」でネット検索をするのが私の日課でもあるのですが、何が嫌いかと言って「橋本治 結婚」という検索予測が目に入ることだし、実際に目にしたことはないけど「橋本治 結婚」で調べる人の何割かの人を私は絶対に嫌いだと思う。だから橋本治が『結婚』というタイトルの本を書いたことに対して嬉しい気持ちがずっとある。
 結婚はこの先の生活のあり方の選択である。そうであるならば性別が前提になくてもいい。この文章が書かれたのは1993年、早くこれが常識になればいいと思います。

「一番大切なのは、胸の中に“友達”っていうものを持っていることだって。あるいは、“幸福”っていうものをきっちりとつかまえていられることだって。
そういうことが分かってる子じゃないといやなんだな、僕は。
ホリー・ゴライトリーは、『フェアじゃない』と言って怒っても、でも決して、『寂しい…』なんて言わない。『幸福を分かっている』って、きっとそういうことだ。」

橋本治『春宵小論集』

 『春宵』を読みながら想起したのは短編集『花物語』。

 他人から目に見えてわかりやすくなくても、自分の感覚でもいいから、自分の胸のなかの幸福に気づいてつかまえておくこと。どんなに些細でも、それがその後の人生で大切な支えになる。だから、「若い読者にこそ美しい物語を読んでほしい」。『花物語』は4月から3月の一年を書いた短編集で、その中には夏も冬もあるはずなんだけど、なぜか春のイメージがあります。『春宵』を読みたくなるような季節には『花物語』も合う、春に読むのがいいな。


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