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自己主張とは、むだな侵略を回避させる防衛の途〈日めくり橋本治〉

「日本人の悩みの多くは“人間関係”に由来するもので、だからこそ、その悩みの解決法の多くは、『そのまんま相手に言えばいい』である。友達や恋人、職場の人間関係などでなんだかんだ悩んでいて、その悩みを整理してしまうと、多くの場合、『そこまで問題をこじらせたことにあなたの責任がないわけではないが、今のあなたの話したことを、そのまんま相手に言やァいいじゃないの。あんたを悩ませている相手は、あんたがそんなにも悩んでいることを理解していないんだから、まず“私はあなたによってかくかくしかじか悩まされている”ということを、相手に伝えることじゃないの?』という答にしかならない。そして、“自分の悩み”を正確に伝えることが出来る人は、『そうなんですけどね..』と、自分に下されたアドヴァイスに対して、微妙あるいはかなりの躊躇を見せることになっている。
なぜ、“問題”を発生させている相手に、『あなたはカクカクシカジカの“問題”を発生させて、私を困らせている』と言う事が出来ないのか?それが出来ないままでいたからこそ、“小さな問題”が“大きな悩み”になるまでこじれたのである。そのことをどれだけ多くの人が理解していないことか。それがつまりは、『自己主張が下手』なのである。
日常生活の中で必要な“自己主張”を怠って、相手のエゴをいたずらに肥大させて、そして自分に被害が及ぶような“問題”にまで深化させる。“問題”が起こってからでは遅くて、それが“問題”にならないような形で、常に“自分のあり方”を相手に表明する─自己主張というのはそういうもので、『それが自己主張なのだ』ということを理解しないからこそ、コソコソとつまらない譲歩ばかりが繰り返されて、つまらない悩みのタコ壺にはまるのである。つまり、『日本人は自己主張の必要を理解していない』なのである。」
──橋本治『失楽園の向こう側』

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