見出し画像

#カワイクイキタイ6「楽園」

「人生最後の日なに食べたい?」
「なんだろ。ラーメンかな。」
「ラーメンなんだ。」
「明日も元気に生きてるだろうって過信してる奴用の、健康なんか知ったこっちゃねえっていう無責任なラーメンが食べたい。」
「なにそれ。」
「にんにく死ぬほど入れて。」
「うん。」
「テーブルにある薬味全部乗せられるだけ乗せて。」
「うんうん。」
「食べたあと地獄みたいに口が臭くても最後なら問題ないし。」
「たしかに。」
「そっちは?」
「聞いてたらラーメンでもいいなって気がしてきた。」
「それは悪い事したな。」
「なんで?」
「ラーメンでいい気がしてきたってことは、ラーメンじゃなかったってことでしょ。」
「でもラーメンの前はなんだったか覚えてないから。」
「そっか。」
「どうしよっか。」
「なにが?」
「これから。」
「どうもしないのはどう?」
「諦めるってこと?」
「なにもしないでいようよっていう提案。」
「・・・。」
「振り返ってばかりだと歩くのがいやになるし、かといってどこに向かえばいいのか分かんないし。」
「じっとしてたら誰か来てくれる?」
「来ないだろうね。」
「誰かが助けてくれる?」
「くれないだろうね。」
「それでいいの?」
「いいかもなって。」
「そっか。」
「なんも言わないの?」
「言わないよ。」
「なんで?」
「だって、そう言うならそうなんだろうから。」
「そっか。」
「うん。」
「目とか耳とかさ、最後まで残すならどこがいい?」
「どこでもいいな。」
「ぎりぎりまで話したいとか、顔が見たいとか、無いの?」
「無いかも。」
「無いんだ。」
「強いて言うなら最後は溶けてひとつになりたい。」
「二人いたことも分からないくらい?」
「うん、分かんないくらい。」
「ラーメン食べに行きたいねえ。」
「行きたいねえ。」
「にんにく入れてもいい?」
「いいよ、私も入れるから。」
「どっちも臭かったら臭くないのと同じだもんね。」
「そうだね。」
「なんか光った?」
「光ったかも。」
「飛行機かな。」
「いや、星じゃない?」
「そっか。君が言うならそうなんだろうね。」

 その時、確かに何かが光りはしたのですが、それが飛行機なのか星なのか二人にとって大した問題ではありませんでした。ここがいつもの部屋なのか断崖絶壁の孤島なのか、明日も世界が続くのか、それもまた大した問題ではありませんでした。ただ二人がそこにいて、それがすべてでありました。ここは楽園。誰がなんと言おうと楽園なのでした。

ひとくちメモ

人生最後の日と休みの日の会話は
そんなに変わらないのではというお話でした。

ラーメンににんにく入れるとか
一緒にくさいもの食べて一緒にくさくなるとか
おならで笑うとか
嫌どころかむしろ嬉しいとか
むっちゃ愛だよね。いいなぁ。

そう言うならそうなんだろう。
お互いがそれでいいならそれでいいよね。

撮影日:2023年1月11日
撮影場所:新宿のラーメン屋

いつも読んでくださりありがとうございます。 サポートしていただけたらとってもとってもうれしいです。 個別でお礼のご連絡をさせていただきます。 このnoteは、覗いて見ていいスカートの中です。