バナナ

あなたに付けられたキスマークの後の痣が消えないのに、あなたとの関係は終わってしまった。
二、三日前に、LINEでメッセージを送ったことを少し後悔してる。
聞きたいことあるんやけど、時間取れる日あるかな?と
「前に、待ってって言ってたけど、結局どうだった?」
「付き合えないなと思った。」
その言葉を聞いた瞬間、体が熱を帯びていくことがわかった。
「体の関係だけっていうのは良くないと思うしね。」と。
しばらく言葉が出て来なかった。
「私もそう思う。よかった。ありがとう。」
私の口からこの言葉が出てきた。
相手からの言葉は、「聞きたかったのはこれだけ?」と。
そう、私はたったこれだけのことで悩んで、うじうじしてたんだ。
涙も出ず、しばらくして、
「それだけ。じゃあ、バイバイ。」
電話を切った。
あっけないものだった。
王子様を求めていたわけではない。
だけど、なんだこの終わり方は。
こういう事があると心にぽっかり穴があくとかどうとか世間ではそうらしいけど。
私は、すりガラスみたいなものが心を覆ってしまったように感じた。
重いような少し暖かい謎の膜。
私は私を守ろうとしているんだろうか。
涙はちょっとずつ、ちょっとずつ溢れては乾きを繰り返す。
なんとなくかけていたラジオが部屋に響き渡る。
ラジオの笑い声がいつもなら私を愉快な気持ちにさせるのに、今夜は違うようだ。
なんだかウザい。
私が、「わーーーー!!!!」って外へ飛び出して、どうにかなっても
きっとあなたは何も思わないとは思わない。
男の人は別名保存ってよくいうじゃない。
私のこともしばらく「〇〇チャン」ってファイル作って保存してくれるかな。
付き合ってたわけではないから違うのかな。
ちょっとでも楽しかった思い出とか、可愛いって褒めてくれたり、ぎゅっとしてくれたりしてくれたこと
保存して、たまに思い出してくれたりとか。
しないよね。
もし保存してくれてたらね。
いつかあなたがちゃんと好きな人ができて別名保存してたファイルを全て消去するような時がくるまで、
私があなたの世界の一部であり続けることができたらと心の底から思っている。
あなたのことが好きになってしまった自分と、あなたのことがどこか嫌いだなと思っていた自分。
私はこの子たちを連れて、しばらく生きて行こうと思う。
女は上書き保存なんだって。
だから、私の今「■くん」というフォルダを上書きしてくれる人と出会える時がきたら、
あなたは私の世界からいなくなる。
それまでは「■くん」ファイルはしばらく置いとくね。
あなたは一生私の初めての人。
これから、どの人とセックスする時もきっとあなたのことがちらつくんだろうな。
「おーいで」って言ってくれて、ぎゅっとしてくれて嬉しかった。
キスするとき、唾を飲ませてくるのはちょっとびっくりしたよ。
だけど、優しくて甘いあなたとの時間はいまの私にはすごく尊い刹那的な日々だった。
あなたの、匂い。
わしゃわしゃな髪。
朝、帰るときにしてくれたキス。
きっと忘れないと思う。
そう思いながら私は、キッチンにあったバナナを食べ始めた。