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社会人としてゴミだった話・前編

私は今でこそ完全な専業主婦だが、新婚当初は働いていたことがある。
これはとある企業にパート従業員として雇われていたときの話。

長いニート生活でまともな職歴がなかった私は、一般的には底辺寄りの職種に採用されることになった。
一通りの面接が終わった後、あなたは生活のために働くわけではないようなので勉強する余裕があるだろうから、ゆくゆくは管理職側に行くことも視野に入れられると告げられた。
その辺の主婦が生活のためではなく働く動機といえば、社会と繋がりを持ちたいとか、他人の役に立っているという実感が欲しいとか、そんなところだろうと思われたのだろう。
表面的には喜ぶフリをしたが、私の動機はそれではなかったので全く嬉しくなかった。
頑張れば奴隷から奴隷頭になれるよと言われているようにしか聞こえなかった。
やり甲斐がどうのなどという話にまるで興味がなかった私は、契約書類に目を落とし、何か法的に問題があるところがないか、その辺りは詳しく知らないのであとで確認しておこうと考えていた。
実際、それほど悪質ではないがグレーな部分があるのを発見した。

私は上手く奴隷のフリをするつもりであったし、実際に出来ると思っていた。
だからこの些細な法律違反を利用する機会は訪れまいとタカをくくっていた。
だがその自信は間もなく打ち砕かれることになった。

私の仕事での主な評価は
・覚えが早くミスが少なく、仕上がりのクオリティが高いが、仕事が遅い。
・ときどき独自の判断で余計なことをやる。
だった。

特に仕事の遅さは問題視され早くするように促されつつ、よく出来ている部分は大いに褒められた。
注意するか褒めるかして、やる気を引き出せば改善できると思われていた。
だが問題なのはやる気ではなく、能力不足だ。
改善する方法は3つある。
①私を解雇して、代わりに十分な能力のある人物を雇う。
②人手を増やす。
③スピード重視で仕上がりのクオリティを落とす。

①は現行法ではこの程度の能力不足で解雇はまず無理のようだった。
重大かつ改善の余地のない能力不足と認められない限りは。
だとしたら②か③しかないが、上司としてはどちらの方法も採用したくないようだった。
だが③が採用できないほど、クオリティとスピードの両立が重要で、尚且つどうやっても私のやる気を引き出すことによる能力の向上が望めないならば、①の正当な解雇事由にならないか?
しかしそれはあくまで私からの視点で、能力の向上とやる気には因果関係があり、なおかつ他人からの評価によってやる気を引き出せるはずだと信じている側に意思決定権がある以上はどうしようもなかった。
おまけに私より歴の長い従業員に、③で何となく許されている人物がいた。
その人は仕事が滅茶苦茶早い代わりに、他の人があとで直さなくてはならないほどにクオリティが低かった。
いつもきつく叱られていたが、気にしている様子もない好感の持てる人だった。
私は彼女に近づいて、仕事のコツを尋ねた。
①も②も駄目なら、私に残された道は③しかない、それもクオリティを落としたと気づかれない程度に落として、その分をスピードに振り分ける道しか。
極端な例を参考にすれば、その丁度いいラインが見つかるかもしれなかった。
彼女に熱心に仕事について聞いている私を見て、他の同僚はあの人は悪い見本だから真似しちゃダメよと言ったが。
というか、彼女の仕事のクオリティで解雇事由にならないのなら、もう③でよくない? 何で駄目なの?
ちなみに彼女と私の業務内容は被っているので、彼女の仕事の手直しは私の仕事だそうだ。ますます遅くなるんだが?

私の仕事が遅くて、そのせいで業務に差し障りがあるのなら、何で有効な解決方法を拒否するのか、それで困っているのは私じゃない、あなたたちのほうだよね?

意味不明。
無理無理無理無理、無駄無駄無駄無駄。

多大なストレスを感じながら、初めての契約更新の日が来たとき、私はそのまま契約を結ぶことにした。
なぜ辞めなかったのか。
それは私の働く動機が理由だった。
正確にはそれが動機だと思い込んでいた。

                             後編に続く

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