グラフの平行移動はなぜマイナスがつくのか

$${y=f(x)}$$のグラフを$${x}$$軸方向に$${p}$$、$${y}$$軸方向に$${q}$$平行移動したグラフの式は、$${y-q=f(x-p)}$$で表される。

これは、高1の数I、二次関数の単元で習う。

しかしなぜ$${x}$$軸方向に$${+p}$$移動するのに$${x-p}$$になるのか、感覚的に理解しづらい。

もちろん、二次関数$${y=x^2}$$のグラフを$${x}$$軸方向に$${+p}$$移動させたグラフが$${y=(x-p)^2}$$になることは、実際にそれぞれのグラフを座標平面上に描いてみれば分かるだろう。

しかし、だからといって、$${y-q=f(x-p)}$$という式にそう簡単に納得はできない。

この記事では、直感的な理解ができるような説明を試みる。

ポイントは「平行移動した後のグラフから」考えること

この問題が分かりづらい原因は、平行移動する前のグラフの話と、平行移動した後のグラフの話を、議論の中でついつい混同してしまうことだ。

そして、「$${x}$$軸方向に$${+p}$$, $${y}$$軸方向に$${+q}$$移動する」という言葉から、平行移動する前のグラフから考え始めてしまいがちである。

しかしながら、これこそが分かりづらさの原因と思われる。

今回は、平行移動した後のグラフから考える。なぜなら、求めたいのは平行移動した後のグラフの式だからだ。

その前に、一つ予備知識を確認しておく。

座標平面上に描かれるグラフは、「ある関係を満たす点$${(x, y)}$$の集合」である。

少し抽象的な言い方をしてしまっているが、大したことではない。たとえば$${y=x^2}$$のグラフは、$${y=x^2}$$という関係を満たす点$${(x, y)}$$の集合だ。$${y=x^2}$$を満たす$${(x, y)}$$の組は無限にあって、x軸とy軸からなる座標平面上にそれらの点をとると、$${y=x^2}$$という放物線を描く。

この考え方はどんなグラフでも共通だ。例えば$${y=x+1}$$のグラフとは、$${y=x+1}$$という関係を満たす点$${(x, y)}$$の集合であって、直線を描く。

ここからが本題

平行移動した後のグラフを考えるといったが、さすがに平行移動する前のグラフは決めておかないといけない。

今回は$${y=x^2}$$のグラフを平行移動することにしよう。(抽象的な議論に慣れている人は、以下の$${y=x^2}$$を$${y=f(x)}$$に置き換えて読んでもらってもよい。)

$${y=x^2}$$のグラフを、$${x}$$軸方向に$${+p}$$, $${y}$$軸方向に$${+q}$$移動させることを考えて、平行移動した後のグラフについて考える。一旦$${y=x^2}$$のことは忘れよう。

いま、求めたい平行移動した後のグラフ上の点$${(x, y)}$$が、どんな関係を満たすのか考える

予備知識の再確認だが、グラフというのはある関係を満たす点$${(x, y)}$$の集合だった。だから、$${x}$$と$${y}$$にどんな関係があるのか分かればグラフが描ける。

いま、平行移動した後のグラフ上の点$${(x,y)}$$について、どんな手がかりがあるだろうか。

それは当然、$${(x, y)}$$が「$${y=x^2}$$のグラフを$${x}$$軸方向に$${+p}$$$${y}$$軸方向に$${+q}$$平行移動したグラフ」上の点であるということだ。

さて、この手がかりをどのように使えるだろうか。

この移動を逆にたどってみると、

平行移動した後のグラフ上の点$${(x, y)}$$$${x}$$軸方向に$${-p}$$$${y}$$軸方向に$${-q}$$平行移動すると、$${y=x^2}$$のグラフ上に乗る」ということがわかる。

そして、点$${(x, y)}$$を$${x}$$軸方向に$${-p}$$、$${y}$$軸方向に$${-q}$$平行移動させた点は、$${(x-p, y-q)}$$だ。(念のために言っておくが、このとき裏をかいてマイナスをプラスに変えたりする必要はない。)

この「逆にたどって移動した先の点」である$${(x-p, y-q)}$$が$${y=x^2}$$のグラフ上にあるというのだから、

$${y-q=(x-p)^2}$$

が成り立つ。これが平行移動した後のグラフ上の点(x, y)が満たすべき関係だ。
そしてこれはまさに平行移動の式になっている。これで終わり。

まとめ

知りたいのは平行移動した後のグラフ上の点$${(x,y)}$$についての情報だった。

そして、「$${y=x^2}$$を平行移動したグラフである」という情報を使うために、平行移動を逆向きにたどって$${(x, y)}$$が満たす関係を求めた。こう考えると、自然に逆向きにたどるのが直感的にも自然に感じられるのではないだろうか。

ただし、今回の説明にも難はある。本来は平行移動した後のグラフ上の点を$${(X,Y)}$$などとおいて、$${y=x^2}$$など関数に用いる$${x}$$や$${y}$$と区別できるようにしたほうがよかったのだろう。ただ今回は「最後に$${X}$$を$${x}$$に戻す」といったよく分からない作業を入れたくなかったので、多少の混乱を承知で$${x}$$と$${y}$$を用いた。

新しいことは、一通りの説明で理解するのは難しいものだ。誰かの説明が理解できなくても、その人の説明が下手とは限らない。さまざまな説明を聞き、自分の中の理解を醸成するのがよい。

この記事の説明が、少しでも誰かの理解の助けになれば幸いである。


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