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無拍子(第三章(最終章))

第三章
それは自分で探すもなのさ、口説くなるようだけど
【24 凪=風がやんで波が無くなり海面が静まること】
部屋の真ん中にパスタの麺がこねられるような大きな机があり、そこに大きくてカラフルな布が敷いてある。
その布の上には、さっきボンゴレ大陸と話し込んでいた、大きな丸い蛸がイライラしている雰囲気で待っていた。
その身体の色合いが、薄白く変わっていたからね。
セバ教授改めアンクル(この呼び名は今の姿の時だけにしてくれと深く注意されていた)に、大きな丸い蛸は
「遅いよ、もう自慢じゃないけど、それはそうと早くあれを頂戴よ」机をコツコツ長い足で器用に叩きながら
アンクルは懐からあのラクダ柄の徳利を取り出すと、今度はその中からキャンディーを2粒ほど取り出して大きな丸い蛸へ手渡した。
大きな丸い蛸は長い手でそれを受け取ると、おもむろにモシャモシャと口の中に入れてクシャクシャと咀嚼した。
「年を重ねるとこれが無くてはいけないよ、海の中ではこんなものは川ほど手に入らないものね」
にこりとだけ愛想笑みをかえしながら、アンクルはそれを聞くでもなく作業の手を進めている。
「今回の夜は短くてよかったよね」と短い言葉をかえしながら。

天井につるされている滑車に黒いひもを通し、その端を蛸の口元へと導いた。
黒いひもには当然だけど、イルカの雛のピギーの涙がこすられていた。
そこまでの準備が全て終わるとアンクルは、
「凪が止んだら始めてくれよ」そう言う。蛸は
「みんな言わなくてもいつもの事じゃない、むふふふふふ」と体を揺さぶる。
それはそうと、僕の時間がこの部屋に入ってからぼやけている。
今は数分だったろうか、今日は数時間だっただろうか、今月は数日だっただろうか?
そのくらいこの部屋の時間の流れ方はぼんやりしていて、[上だろうか下だろうか青だか赤だかカーペットだろうか海だか風だろうか川だろうか河だろうか皮だろうか革だろうか]それらについての質問をイルカの雛のピギーと話し合っていたのかいないのか
大きな丸い蛸が僕に、
「その足についているへてこなへんてこは何だい?」と質問された気がするんだけど、僕はそれになんて答えたのか答えてなかったのか答えられなかったのかも解らなくなっていた。
そんな時、窓からビュウっと風の色が見える。
色とりどりの海面を揺らす波の色と匂いと香りと輝きが立ち始める。
凪が窓から呼びかける。
アンクルは叫ぶ
「今だ!」大きな丸い蛸もその合図に
「わかってる!」
黒いひもが見る見るうちに色づいていく、そのひもの色々が滑車の所まで差し掛かったところで、パスタの麺をこねられるような大きな机の上の大きな布にポタリポタリと黒い色のパスタの綿が黒く落ちていく。
するとそこに宇宙が作られていく。
そんなところに宇宙が造られていく。
そういう場所に宇宙が描かれてていく。
僕とトマトが旅をした、あの広大な宇宙を。
布の上の宇宙はやっぱり空の奥の宇宙と一緒でね。
そこに描かれていた東の一群のマーベラスのウルィティング星雲の2番星なんかは、ジロリと僕をにらんでいたよ。
それでも僕はへっちゃらさ。
だって、その宇宙を作成している風景はね、それはそれは今まで見たもの聞いたもののすべてを足し算引き算したって、かなうもののないほどの神々しいものだったんだもの。
何時間それを見ていられたのだろう。何日間その光景が続いていたのだろう。我に返ると、すっかり布の上には宇宙が完成していてね。
アンクルと大きな丸い蛸は机を取り囲み、お互いの仕事に満足がいったようでプカリプカリとおいしそうに煙草をのんでいた。
僕のとなりではイルカの雛のピギーが、丸くなって眠っていて僕をすっかり温めてくれていた。

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ひとまずストックがなくなりましたので これにて少しお休みいたします。 また書き貯まったら帰ってきます。 ぜひ他の物語も読んでもらえると嬉しいです。 よろしくお願いいたします。 わんわん