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短編『何も気にならなくなる薬』その114

よく人の服装にケチをつける人がいるが、好きなものを着ればいいではないか。
そういう言い方をしている人たちほど、いざ自分が言われる側になると激怒する。
他人は自分の鏡、よく言ったものだ。

「回路図」「通信障害」
「やりがい搾取」
「ノンカロリー」
「狂気の沙汰」

今回はこの五つ。


「今回の通信障害の案件は我々の作った回路図に問題があるということになった」
「その言い方だと先輩は納得してなさそうですね」
「もちろんだ。私達はプライドをもって仕事をしている。ケチを付けられる筋合いはない」
「でも、今回は認めるしかないと」
「そうだ。そのうえでミスは許されない。またしても私達がその原因にさせられてしまうからな。今回は長くなる」
「それでこの大量のエナジードリンクですか」
「そうだ。ノンカロリーだから安心して飲むといい」
「いや、ここまでくるとカロリーがどうとかそういう問題じゃないですよ」
「ここまで追い詰められればやりがいがあるだろ」
「そんなのやりがい搾取ですよ」
「とにかく頼むぞ、私は先方に出向いて他の原因を探ってもらうために掛け合ってみるから」
「わかりました。宜しくお願いします……っておい、そこ聞いてるのか」
「聞いてましたよ。木村さんも真面目ですね。先輩が本当に先方に出向いて他の原因を探ってもらおうとしてると思っているんだからなぁ」
「どういうことだよ」
「あの顔、ちゃんと見ないと、なんだか楽しみにしている顔だったよ」
「楽しみ?なにを」
「私の予想ですけど、先方に出向くまではあっているけど、仕事を部下のせいにして、いつものゴマすり。そんなとこでしょ」
「まさか」
「私は今回の件で降りようと思います。この船は沈みますよ」
「それはこれからなんとかすれば」
「なんとかなるといいですけどね。木村さん、いっそのことストライキでもしませんか」
「ストライキ」
「みんなで仕事を放り投げるんですよ」
「いや、そんなことをしたら」
「私達の仕事は間違ってない。そう思ってますよね」
「それはそうだ」
「なら、何一つ直す必要なんてないじゃないですか。私達が、ストライキをすれば、上は私達の仕事の大切さを理解しますよ」
「正気の沙汰じゃない」
「この状況で馬鹿正直に働いている方が正気じゃないですよ」

「おい、これは一体どういうことだ」
「ストライキです」
「ストライキ?そんなことをして何の意味がある」
「私達の回路図には問題はない。責任を押し付けられる筋合いはない。正当な判断を下せ」
「今回の原因がはっきりしたよ。君たちは己の技術に過信している。そこまで過信するのは狂気の沙汰だ。ストライキなんかして勝てると思ったのか」
「ええ、勝機の沙汰です」

美味しいご飯を食べます。