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短編『何も気にならなくなる薬』その185

オートバイ

おはぎ

秋祭り



秋祭りといえば、個人的にはお月見泥棒が懐かしい。
小学生の子どもたちが「お月見泥棒です」と玄関先で言えば、家の中から住人がお菓子を持って出てくるという行事だ。
今の世ではなかなか難しい行事ではあるが、昔は子供のいる世帯も多かったため、ご近所付き合いも兼ねてお菓子を用意している家も多かった。
また近所にお菓子の工場があったので、そこの工場が穴場というか必ず行く場所だった。
けれどもそういった情報がネットで出回るわけではなく、
子どもたちが同士で「あの家はもらえる」「この家は怖い人がいる」といった情報交換が行われて、それもまた地域の子どもたちが横のつながりを広げているいい行事だった。
オートバイで走ってきて、おはぎを配って回る人もいた。
自転車に反射板をたくさんつけている人もいれば、たわしに紐をつけて散歩しているおじさんもいた。
そういった情報が子どもたちの間で共有されていて、子供は子供なりに自分の身を守っていた。
しかし、今や子ども同士のつながりはだいぶ薄い。
ネットも普及して世の中のことはわかっても、ご近所のことはほとんどわかってない。
昔は抜け道や近道を見つけては仲の良い友達に教えていたなんてことがあった。
お月見泥棒は今ではもう見えない。

美味しいご飯を食べます。