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短編『何も気にならなくなる薬』その197

今や「歩きスマホ」なんてものは当たり前のように認知されているはずなのに、危険意識が弱い。
歩いている人間はもちろんのこと、車やバイク、自転車に乗っている人ですらスマホの操作をしながら運転をしていることがある。
そこまでして見るべきものがあるのだろうか?
腰を据えてから見たほうが良いのではないかと思ってしまう。
「歩きスマホはおやめください」
駅構内でもアナウンスがしきりに流れている。

かくいう私もこうしてスマホから書き起こしている。
各々がやりたいこと、やるべきことがあるのだろう。
その画面に何が映るのか、人の数だけあるのだろう。
しかし、歩きながらやるほどのことなのだろうか。


空腹

地縛霊

新興国

とある新興国での出来事だ。私は巡礼の折にその土地を訪れた。
新聞の記事の上ではこれからが期待される土地だと言われていたが、実情はあまり芳しいものではない。
一部の裕福な場所では子供がお腹をすかせている姿を見ることなどない。それどころかぶくぶくと肥えている。
反対に裏路地では物乞いをする子供がその路地の地縛霊のように彷徨う。
「施さないように」
この言葉の意味を知って私は心を鬼にした。その場しのぎの施しが彼らの人生を救うことはなく、一瞬の渇きを潤すに過ぎないのだと。
「近づいてきたらそれはスリだ」
この言葉の意味もよく分かる。
誰しもが飢えに苦しんでいる。
そんな中、よそ者に近づこうとする時点で疑わしいのは明白だ。
ではなぜその道を通ったのか。物を盗まれても構わないという心持ちもあった。
気づかないふりをして施そうなどと考えたのは私の心の悪いところなのだろう。
小さな体が私の身体を小突いたかと思うと、つっと逃げ去っていく。
やはりスリだ。
財布はそこにはない。
しかし、それは身代わりの財布だ。
中には何も入っていない。
あの少年は路地裏で落胆していることだろう。
その姿を想像して喜びを覚える。
それもまた、私の悪いところなのだろう。

美味しいご飯を食べます。