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地上の絵

おい、与太郎、棒切れを持って、また地べたに落書きしてら、今度は何を描いてんだ?
これはね、ゆうふぉーってのを呼ぶんだよ
何ゆうふぉー? 聞いたことがないな、何だいそりゃ
あたいも知らない。
知らないのかよ
知らないから呼んでる。
たしかにそうかもしれねぇが、誰から教えてもらったんだい?
近所の子供。
近所の子供?そしたら金坊か?
金坊じゃない。
じゃあ、寅ちゃん
寅ちゃんでもない。
そんなこと言ったら近所には他に子供はいないや。どんな子だった。
女の子。
女の子?女の子一人がこんなところを歩いてることはないだろう。親御さんはいたかい?
親御さんはいねぇ。
そりゃ心配だな、どこで見たんだい?
井戸の側。
井戸の側?また危ないところをうろついて、皆にも言っとかなくちゃいけないな。じゃあ与太郎、またな。

あっ、おじさんまたね、おっかしいなぁ、たしかに女の子……あっ、いた、おーい、おじさん!おじさん、ありゃ今度はおじさんがいなくなっちゃったよ。なあ、お前の名前なんてんだい?お菊?お松?お鶴?
「お千代」
お千代? うちの婆ちゃんと一緒だなぁ、お千代はどこの子だい。
(上を指す)
あー、そっか、おっかさんおそらに
行っちゃったのか、俺と同じだ。可哀想にな、どこに住んでるんだ。え?そこのうち?そこは俺の家だよ。おいおい、勝手に入っちゃ、うーん、猫みたいな子だなぁ。

おい、与太郎さん、店賃はどうだい。
店賃はとれそうかい?
それはおまえさん次第なんだよ。それにしたってなんだい、そんな若い女の子、どこから拾ってきたか知らないけど家に上がらせたりなんかして、その子の親御さん心配するだろう。
拾ったんじゃないや、勝手に住み着いてる。
居候かい?まだ若いのに強かだねぇ、けれども、住み着くところ、間違えたんじゃないのかい。どうせならうちにおいでよ、店賃の代わりに。
大家は悪人だ、俺に若い娘を身売りさせるのかい?
あぁ、やだねぇ、わかったよ。こんなに可愛い子を匿ってんなら、黙っておいてあげるよ。その代わり、私の家にも遊びにおいで。
(首をふる)
いやがってる。
やだねぇ、懐いちゃったのかい?この子の名前は?
お千代てんだ。
お千代?お前の婆さんの名前じゃないか。お前がつけたのかい?
いいや、この子が言ってた。そうだよなぁ。
(頷く)
はぁ、不思議な縁があったもんだね。私も退屈だから、取立て代わりに遊びに来るよ。
あはは、大家さん帰っちゃった。お千代すごいぞ、店賃いらなくなった。
「千代、お腹すいた」
お腹すいた?何かをあったかな、芋があるや、芋を食べよう芋だ芋。
芋。
芋しらねぇのか?お千代は変わってんだなぁ、明日はもっといいもの食わしてやろう。

聞いたかい?最近の与太郎。相変わらず馬鹿だけどえらく働くようになったじゃねぇか。
なんでも女ができたらしい。
与太郎に?世の中ってのは分からねぇなぁ、面白いから覗きにいこう。

おい、おい、おい、おい、
見たか見たか見たか!?
与太郎のやつ、子供こさえてやがった、あら何歳だ?
いや違うよ、あれがその女だ。
え?なんだよ、またションベン臭い子供じゃねぇか。どこから拾ってきたんだ?
あっ、与太郎が出てきた。
おい、与太さん
なんだい。
お前さん、えらく働くようになったって聞いたけど、遊女の娘かい?
いいや、ゆーふぉーの子供。
ゆぅふぉおう?なんだいそりゃ、訳が分からないな。でも、まぁ、可愛い子だから俺たちでも面倒見てやらないとな。与太郎、おめぇ、うちに米余ってるから家に米取りにきなよ。
八つぁんは優しいなぁ、ありがとうありがとう。

ん?あれが与太郎のところのお千代ちゃんか、こんな夜中に棒切れ持って何してんだ?おい、だめだぞ子供がこんな夜中に遊んでちゃ。ん?面白い絵を描いてるな、お千代ちゃんは画家になりたいのかい?おじさんが今度、筆と紙を持ってきてやろう。

お千代ちゃんは難しい字を書くんだねぇ。俺達も知らないのばっかりだ。誰に教わったんだい?
え?お母さんから?そうか、お千代ちゃんは賢いんだなぁ。

おい、与太郎
ねぇ与太さん。
おう、与太郎。
お千代ちゃんは?
千代ちゃんは?
ありゃ、二人ともいねぇ、家の中ももぬけの殻。一体どこ行っちまったんだろう。

あぁ、あぁ、誰だい、また地べたに落書きして、こんなに大きいの、消すのが大変なんだよ。
それにしたって、一体誰が描いたんだろう?

美味しいご飯を食べます。