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相性

転がり込むという表現は間違っていなかった。
ことの始まりは彼が酔っ払って客人を連れてきたことだ。
酒の席で随分と息が合ったのだろう。
面白おかしく話をしたあとはそのまま眠りに落ちていった。
かくいう私は空いていた部屋に移動して、なるべく邪魔をしない形を取った。
一緒になって話をしてもいい気もしたが、なにより二人が楽しそうにしているならそれを邪魔したくないと思えたのだ。

とはいえ最低限の防犯意識を持ったまま、私は眠りにつく。
思えば、私は人見知りだったのを思い出した。
友人の友人というほぼ他人のような相手が、唐突に家を訪ねてきては、その場で挨拶くらいはできても、それとなく会話をすることは難しいかった。
「今日のご予定は?」
朝、目が覚めてお湯を渡していると二人は昨日の酒のせいか気だるげに起き上がった。
二人が顔を見合わせて気の抜けた顔をする。誰が見てもわかるように彼らは未計画だ。
かんたんな朝食を用意して、初めて三人がテーブルを囲む形になった。
「すみません、急に来ることになっちゃって」
唐突なことは今更で、改まって丁寧に振る舞われるのが可笑しかった。
「二人は連絡先交換したの」
「あぁ、してなかった」
なんだかまたどこかで会ったときに、とでも言いたげな感じで、公園で偶然仲良くなった子供みたいな関係になりそうだったいい大人の二人は、気恥しそうに連絡先を交換していた。
「じゃあ、私はこれで、ありがとうございました」
来たときよりも尚のこと丁寧になって帰っていく姿はどことなくよそよそしくもあった。
「今度からちゃんと連絡するとか、まずは外で会うとかさ」
「ごめんよ」

それからしばらくしたある日のこと、飲みに行くという連絡で、彼に行き先を聞けば、なんでも今度は彼の家に遊びに行くそうだ。
本当に相性がいいんだなと感心すると共に、どことなく羨ましくなっている自分がいた。

美味しいご飯を食べます。