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短編『何も気にならなくなる薬』その190

これをいつまで書くのか、また折り返しはどこなのか。
考えても仕方のないことはわかっているが、それができなくなる日は必ずくる。
その時、私の心の拠り所はどこだろう。
読書をする時間も、ゲームをする時間も、運動をする時間もすっかりなくなってしまった。
今まではそれが拠り所で、それをすることで何とか生きてきた。
それが今ではほとんどやっていない。
歳を重ねるにつれて心の拠り所というのは変わっていくのかもしれない。
単に忙殺されているだけなのかもしれないが。
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マーメイド

ネットニュース

トンボ

契約書

精神疾患


ネットニュースで話題になったマーメイドはいつもと変わらず岩の上で歌っていた。
あのときの人形を捕獲しようとした組織は鳴りを潜め、マーメイドは存在するという事実は世の中にとって当たり前の事になっていた。

「それで、今日はどうして呼んだのですか」
「変なものが見えるんです」
「変なもの?」
「あの一件から眠れない日が続いて、あなたが来るまで私のまわりには沢山のトンボが視界の中にいたんです。本当です。嘘ではないんです」
「疑ってはいませんが、詳しく話せますか」
「ちょっとまってください、あれはたしか」
それから彼女はだまり続けたままだった。
彼女はその出来事を語りたくても語れない、心にブレーキが掛かっていた。
精神疾患の一つだ。
ある時を堺に私は彼女と一枚の契約書を交わした。
それは私が、彼女専属の医者になるということだ。

それから彼女に呼び出されてはただただ話を聞く。そうした日々が続いていた。

「もう、あれと関わるのは止した方がいいと私は思うよ」
助手はコーヒーを机に置くと共に苦言を呈した。
「君に言われる通りかも知れないが、私はどうしても彼女を気にかけてしまう」
「それは勝手ですけどね、世の中の貴方の立場が悪くなるばかりですよ」
「彼女が病気だからか?」
「そういうことじゃないんですよ」
「マーメイドだろがなんだろうが彼女は私の患者だ。私は彼女を救ってあげないといけない」
「生きている世界が違うんですよ」
「うるさい、最後に決めるのは私だ」

その晩、彼は姿を消した。
机の上には彼女と共に生きることを決めた手紙が残され、また彼は海の中で見つかった。

美味しいご飯を食べます。