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女と女の約束55 事件全体を知りたがるだろう

石川角白
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https://twitter.com/tacklesun/status/1556224757124972544

 この美智子は村瀨名義の一室(マンション)から村瀬が轢殺(れきさつ)される前に追い出されている。
 その腹癒(はらい)せか、美智子は追い出された直後に村瀨の仕事の相棒・普天間(ふてんま)大伍(だいご)とも寝ていた。
 もちろん痴情(ちじょう)の縺(もつ)れという線で聞き込み、共同経営者・普天間への尋問(じんもん)が為(な)されたが、轢殺(れきさつ)当夜、美智子にも普天間(ふてんま)にも別個に完璧なアリバイがあった。
――ほぼ同じ時期に、関係していた男が三人……
 轢き殺された村瀬。
 村瀬の後釜として美智子と結婚して十年、先日、どうやらその美智子に毒殺されたと報じられている大城。
 そして轢殺事件当時の村瀬の共同経営者・普天間(ふてんま)。
――二股(ふたまた)ならぬ三つ叉(また)、十年前の轢殺あり数日前の毒殺あり……アリバイはともかくこの美智子(ビッチ)は要注意だな……
 恵理(えり)は次の報告書に取りかかった。

 村瀨は中臣(なかとみ)物産には内緒(ないしょ)で怪(あや)しげな金儲(かねもう)けに出資していて、その副業を実際に取り仕切っていたのは相棒の普天間(ふてんま)だった。その普天間(ふてんま)が真犯人(本ボシ)だとすれば動機は美智子への愛というより金銭だろう。
――まずはこの普天間(ふてんま)を犯人と仮定して裏金の出入りを洗ってみよう……
 恵理(えり)は村瀨の顔写真を拡大した。
 自分の顔がフランケンシュタイン並みになってから、恵理(えり)は顔の美醜から初対面の相手の個性を窺(うかが)う習慣を無くしていた。
 それでも村瀨の美貌(びぼう)は認めざるを得なかった。
 ローティーンから五十女まで、およそ生理のある女ならこの顔を無視できないだろう。
――私も顔や脚の長さで男について行った頃があったな……
 恵理(えり)は皮膚の色も眼の色も様々な若者たちがたむろする街の雑踏(ざっとう)とそこの人熟(ひといき)れを想い出した。
 彼女の十代は渋谷と共にあった。
――あの頃の顔に戻れたらやはりあの街で遊び回るだろうか?
 恵理(えり)は久しぶりに立ち現れた白日夢を頭から追い払った。
――とにかくこの顔を提(さ)げてあの頃に戻らなくていいのだ……
 恵理(えり)は雑多(ざった)な情報をプリントアウトして、滅多(めった)に使わない上質の大型封筒に放り込んだ。実際には何一つ手がかりを掴(つか)んだわけではないがきっと晴子は警察から見た事件全体を知りたがるだろう。

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