古今集巻第十二 恋歌二 589番
やよひばかりに、物のたうびける人のもとに、又人まかりて、せうそこすとききてつかはしける
つらゆき
露ならぬ心を花におきそめて風吹くごとに物思ひぞつく
弥生三月の頃に、恋の想いを伝えた人のところに、また別の男が訪れて、恋文を残したと聞いて送った歌
紀貫之
露のようにささやかではないわたしの心を、美しい桜のようなあなたに置きはじめたので、余計な風が吹くたびに花が散らないか、あなたがなびかないか、それが気になって仕方がありません
「物のたうびける人」は「物のたまひける人」で、恋を言い寄ってくる人、「せうそこ」は「消息」で手紙のことです。
おそらく実際に起きた出来事に対する歌で、他の男になびかないでくれと、かなり強い意志を詠んでいます。この直前の588番の歌は貫之が大和にいる女性に逢いに行きますと送っています。今すぐ行くからもうちょっと待ってくれということかもしれません。
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