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「美味しいです」←この日本語は間違い

「美味しい」を丁寧語にしてみて

大昔(少なくとも前世紀)からモヤモヤしている日本語についての疑問を書きます。

「おれはラーメンを食べる」

これを謙譲語に直して下さい。

「私はラーメンを頂きます」

ですね。


「お前は何を食べる?」

これを尊敬語に直して下さい。

「あなたは何を召し上がりますか?」

ですね。


「このラーメンは美味い」

これを丁寧語に直して下さい。

「このラーメンは美味しいです」

……ふむ、まあいいでしょう。

じゃあ、それを過去形にして下さい。

「このラーメンは美味しかったです」

…………むむむ……。

それ、正しい日本語でしょうか?

いや、学校の教科書にもそう書いてあるので、常識的には正しいのですよ。


「美味しいでした」はなぜ間違い?

じゃあ、ですね。

「このラーメンは美味しいでした」

という表現はどうでしょうか。

間違いですよね。

じゃあ、【なぜ間違いなのか】を説明できますか?

多分できないのですよ。できたとしても、「そんなの普通じゃない」というくらいしか根拠がないのです。

形容詞も「です」も過去時制を持つところがミソ

「美味しい」は形容詞であり、形容詞は「~かった」という過去時制を持ちます。

同様に、「です」も「でした」という過去時制を持ちます。

つまり、「美味しいです」を過去形にするのであれば、「美味しいでした」と言っても良いわけですよ。少なくとも、文法上は、ね。

あるいは、「です」と「だ」は意味としては同じなので、
「このラーメンは美味しいだ」
「このラーメンは美味しかっただった」

という表現も認めなくてはいけません。

でもそんな表現を使う人はいません。

教育者だってこのパラドックスを説明できない

これはもう「こういう慣用だから」というしかなくて、論理的には間違いであることを説明できないのです。

ナントカって言う女性のグルメ評論家の決めゼリフは
大変美味しゅうございました」
でした。これ、文法的にも申し分ないのですよ。しかし、いわゆる「ですます」ではないので、謙譲語であって丁寧語にはならないと思います。

つまり、「美味しい」を文法的に一点の曇りなく丁寧語に変換することってできないのですよ。

ではなぜこんな歪が生まれてしまったのでしょうか。

とりあえず「丁寧語」を規定しようよ(やっつけで)という歴史

日本語を極度に難しくしている敬語ですが、この敬語の歴史は、少なくとも千数百年は遡れるでしょう。

しかし、「丁寧語」となると…私も素人なんで分からないんですが、大河ドラマなんか観てたら戦国時代でもですます調は使っているものの、テレビだしなぁ……基本的に話し言葉なんで、おそらくプロの言語学者の中でも見解が分かれてたりするんじゃないでしょうか。

いずれにせよ、歴史はそう深い物ではないと思います。

そして、先人たちは国語の教科書を作る時に苦慮したのではないかと想像するんです。形容詞を丁寧語でどう言えば良いのか?と。

日本語が動詞必須なら楽だった

日本語が、英語みたいに「必ず動詞がないとダメ」ってルールであれば楽なんです。

「このラーメンは美味しい」
だけだとどこにも動詞はありませんが、これに動詞を加えるなら、
「このラーメンは美味しくある」
となるでしょう。いわば、英語のbe動詞を使った形容詞の表現方法の直訳です。

「美味しい」という形容詞が連用形になり(つまり副詞となり)、「ある」という動詞を修飾する、という形ですね。

文法的には何ら誤謬のないこの表現、慣用として認めて頂くなら、丁寧語は簡単です。
「このラーメンは美味しく(美味しゅう)あります」
実にスッキリですね。ただ慣用としては馴染みがないだけ。
でも「美味しかった」は「美味しく+あった」の音変化の形でしょうから、本来であれば、
「このラーメンは美味しかりました」(現在形なら「美味しかります」)
みたいな形になるはずなんですよね。

「大変美味しゅうございました」はこの形なので、謙譲語としては申し分ないのです。


というように、日本語は形容詞単体で文章が成り立ってしまうところに問題があるのです。

そして形容詞自体は敬語表現を持たないので、わざわざ「です」という不自然な「である」動詞の亜種を持って来ないといけないわけです。

学校では形容詞の謙譲語をどう教えてるの?

ん?よく考えたら「美味しい」を謙譲語で表現しろなんて問題が学校で出るんでしょうか?だとしたらその答えは?

「美味しゅうございます」って教えてるんでしょうか?それならそれで良いんですが…

だってね、かなり目上の人にご馳走してもらって、その感想を聞かれたとしても、「美味しゅうございました」とは普通言いませんよね。微妙に変形して「美味しく頂きました」とかもっと大胆に「このような料理は頂いたことがございませんでした」とか言うしかないと思います。

でも「美味しい」を謙譲語に変換するだけなら「美味しゅうございます」しかないはずだし、そうなると過去形は楽ですよ。「ございます」を「ございました」に変えるだけですから。

裏技として

裏技としては、形容詞の直後に「もの」とか「の」を挟んで、
「このラーメンは美味しいのです」
「このラーメンは美味しいものでした」

という表現なら全く問題ありません。

しかし文法上に問題がなくても、実際のニュアンスとしてはかなり違ってくるのです。

もうね、どないせーっちゅうねん!ですよ。


そもそも「ですます」って何よ

そもそも「ます」は「申す」の転訛形、「です」は「であります」の短縮形と考えるなら、「です」には「ある」と「申す」という動詞がすでに2つ内包されてるんですね。

「ます」の前には一般動詞の連用形が来ればいいので、「書きます(申す)」「致します(申す)」で良いんです。

一方ので「です」の「で」は格助詞で、この場合は直前に体言しか持って来られません。
つまり、「小生は寝る前に歯を磨くのであります」はOKだけど、「小生は寝る前に歯を磨くであります」だとケロロ軍曹みたいになってしまいます。

ちょっと酒飲んでぽやーんとしてきたんで、この辺で良いですか?

………じゃなくて、

良い【の】ですか?


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