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白く引き裂かれてあるように

白く引き裂かれてあるように

暗く翳っていく彼女の横顔に

一筋の靄が棚引いていって

かつても今も存在していなかった心の

秘密というには廃れきった地図を明け渡す

彼が辿るのは地図には描かれていない

あの緑色の繁茂する地滑りを起こした深い森

横顔としての道が切り開かれていたのだ

彼は斜めに傾いだ木の幹に手をかけながら

転げ落ちていかないよう慎重に下っていく

正面から見据えるためにか

かつて彼女にしてしまった傷痕の探索

今も白く引き裂かれてあるように

罪を重ねるのをやめられない執拗な悔恨

遠くから彼女の声が彼の枯渇した静寂に

呼び掛けている気がした

響きを怒りの見えない掛け橋にして

真ん中で崩れ落ちるためだけの声の橋

彼はその橋は渡らずに暗く翳っている谷間へと

彼女の横顔から迂回して

彼女の頬に擦り傷ひとつ付けてはならないと

土の表面を削り取らないようにしてようやく

彼女の髪の流れを模した川に降り立つ

その川の裏側に彼女の目があると思うと

居ても立ってもいられなくなり飛び込んだ

川は開いたように見えた

彼の影を鍵のかたちに変えた

水を透かして彼の動向を窺っていたのだ

彼女の顔を遠くから見つめるかつての彼の羞恥を

今では彼女の顔に住う彼の歓喜を

そうして呪いの言葉を吐いた

そうして口づけを拒絶する呪いの言葉を吐いた

白く引き裂かれてあるような冬の言葉を

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